作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、名古屋出入国在留管理局で収容中に死亡したウィシュマ・サンダマリさんの事件について。
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2021年、名古屋入管で死亡したスリランカ人のウィシュマさんの事件は、結局、「誰の責任も問わない」という形で終わった。遺族は殺人などの容疑で職員13人を告訴していた。昨年12月の検察審査会は、「殺人罪」は不起訴相当にしたが、「業務上致死罪」の不起訴を不当とし、再捜査が行われていた。
苦しいと訴えても誰にも耳を貸してもらえず、ベッドから落ち冷たい床の上で寒さを訴えても全身に毛布をかけてもらえず、病院に連れて行ってくれと嘆願しても聞き入れられず、ウィシュマさんは亡くなった。死に至るまでのウィシュマさんの動画を見た妹たちは、「姉は動物のように扱われ殺された」と訴えていた。
同居する男性からのDVから逃げるため日本の警察に相談したことが、全ての始まりだった。警察はウィシュマさんを保護せず、ウィシュマさんは収容されて約半年後に死亡した。もし適切な医療を適切なタイミングで受けられたら、33歳の健康な女性が苦しみながら亡くなるなどということがあるだろうか。最後は食事も喉を通らず、飢餓状態にあったというウィシュマさんの絶望を思うとやりきれない。
9年前、知人の事件に巻き込まれる形で私は逮捕され、3日間、国家権力によって拘束された。
初めて中に入って驚愕したのは、留置所に収容されている8割以上が外国人だったことだった。それでも、私が知る限り、外国語を喋る職員はいなかった。驚いたのは、裁判の時に通訳を要請するかどうかを問う書類を、日本語で聞いていたことだ。檻越しに中国人に日本語の書類を見せて、「通訳が必要だったら、ここに印をつけて」と職員が大声で話している。意味が分からず中国人が困っていると、職員はさらに大声でゆっくりと話すのだった。そういう問題じゃないでしょ、と隣に行き、「ここに✓したらいいよ」と紙を指さすと、職員は私を激しく叱りつけたのだった。まさに犬をしつけるかのような勢いで(今どき、犬にだってそんな叱り方はしないが)、黙れ、離れろ、口を出すな、という調子だった。女性の留置所なので職員は全員女性だったが、人間的な感覚が完全に麻痺する職場なのだと思った。
入管は留置所よりもさらに管理が厳しいと聞いている。