「イラクのビザは最長1カ月だったので、イラクでの経験を元に、日本に戻ってから文献を調べ情報を集めて自分をバージョンアップさせてイラクへ行くの繰り返しでした。いろんな縛りがある中で、いかにベストを尽くすか。たぶん、10年前だったら絶対書けないと思うんですよ。自分でも本を書くために、技術を少しずつ上げていますから。あの一帯は、点もないし、線もないので、物語にするのが難しいんです。例えば、舟旅をしようとしてもどこから行っていいのかわからないし、そもそもどこに行けるのかさえわからない。すべてがそんな調子で混沌としています。何回もイラクに行って何をやっているの?って聞かれましたが、一言で言えないんですよ。本を読んでもらうしかない。本を読んでもらうことで、自分のやっていること、感じたことが伝わるはずだと信じて書き続けました。でも考えてみたら、挑んだ相手が怪物なのは当然ですよね。メソポタミア文明って学校で習っているけど、あの偉大な文明の発祥の地がイラクの巨大湿地帯なんだから。忘れてたけど(笑)」

 とにかく本を読んでくれ──その答えは、すでに出ているだろう。500ページ近い大著は、発売後瞬く間に版を重ね、現時点で3刷まで部数を伸ばしているのだから。

(編集部・三島恵美子)

AERA 2023年10月2日号

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