あまたある取材相手の中でも、個人的に一番頭を悩ませているのが他でもない藤井の取材だ。何しろデビュー前を含めると、数え切れないほどの質問を重ねている。常に「強くなること」を志向する藤井は、自身が次々とたたき出している新記録についてあまり関心を示さない。そんな藤井からいかに新しい言葉を引き出すか。振り返れば、いつもそのことを考え続けてきた気がする。

 藤井ファンとの思わぬ交流から一夜明けた朝にも、藤井にインタビューをする機会があった。前日の勝利で3勝1敗とし、史上最年少での名人獲得まであと1勝と迫ったが、当の本人は「対局中に(あと1勝だと)考えてもあんまりいいことはないので、なるべく今まで通り自然体でできればと思っています」。力みは全く見られなかった

 席を立つ藤井に、出してみたい「クイズ」があった。「一行が宿泊しているホテル周辺の標高がどれぐらいか」というクイズだ。前日、飯塚市について調べ物をした際、里山が広がる風景とは裏腹に、標高が20メートルに満たないことに気づいた。あまりにも唐突な質問だが、地理好きで知られる藤井なら笑って答えてくれるのではないか――。

 いざ、出題してみると、藤井は脳をフル回転して真剣に考えてくれた。

「えーと、福岡市からここまで来るのに峠を越えてきたので、うーん……」

 予想外だったのは、「20メートル以下らしいですよ」と告げた時のリアクションだった。

「ええー! そうなんですか」

 その藤井の声量は、これまでに私が聞いた中で最大だったかもしれない。驚かされると同時に、興味のある事象には思わず前のめりになるチャーミングな人柄がうかがえた。

 藤井に取材する機会は、今後も節目節目で巡ってくる。次は、これまで以上にとっておきの質問をぶつけたい。今度は地理ではなく、将棋に関する質問を。(敬称略)

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