瀬戸内寂聴さんとの出会いをきっかけに俳句を始め、「寂明」という俳号まで授かった俳優の奥田瑛二さん。正岡子規について夏井いつきさんと語った『よもだ俳人子規の艶』(朝日新書)では、売れない俳優時代の話に。自分の中に引きこもることの大切さとともに、俳句との共通点を分析。本書から一部を抜粋、再編集し、紹介する。
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夏井:奥田さんには三つの名前があるわけだけど。本名の「安藤豊明」さんと、「寂明」さんと、そして芸名の「奥田瑛二」さん。
この中で、芸名の「奥田瑛二」とは、安藤さんにとってどういう存在なの?
奥田:「奥田瑛二」の名は、僕にとって弾道ミサイルみたいなもので、一番エネルギッシュで、どこにでも容赦なく飛んでいける装置かな。
夏井:え、弾道ミサイルってそういうものだった?
奥田:いえ、違います(笑)。ちゃんとした弾道ミサイルは、予め設定した地点を目指すんだけど、僕のミサイルは縦横無尽に飛んでいくようなイメージ。現世の森羅万象の中で、「奥田瑛二、一号」がずっと空を飛びまわっている。
夏井:ちなみに「奥田瑛二」の芸名はどうやって決めたの?
奥田:これも人から授けられて。
夏井:奥田さんは授けられる人生なんだ。他にも授けられたものが多そうだけど(笑)。
奥田:ええ、家も妻に授けられました(笑)。若い頃から俳優を目指すも、不遇時代はホームレス状態で、妻に出会って救われたんです。
夏井:奥様の惚気話が始まりそう……(笑)。