本書は、決まった領土や国民を持つ「国民国家」という枠組みからはじかれる難民・少数民族などのマイノリティに目を向けたルポルタージュだ。
 今日、テレビ番組では「難民」「無国籍者」を「弱くてかわいそうな人達」という一面的な視点で描きがちだ。自分を「めっちゃ普通の茨城の中坊」と語るベトナム難民2世の男子、国籍上は「日本人」として育ち、現在は中国で暮らす日中ハーフの女性……本書に登場するのは、そうしたイメージを軽々と裏切る人々だ。学校生活を謳歌したり週末にクラブイベントを主催したり、あっけらかんと生きているかに見える彼らだが、陰では問題も抱えている。日本国籍を持つ華僑2世の女性は、日本の「グローバル企業」に入社するため就職活動をしていた最中、履歴書の書き方や服装を注意され、結局就職を断念。「日本の社会での『グローバル』って何」という彼女のつぶやきに胸が痛む。「多文化共生」「弱者救済」といった口当たりの良いスローガンを捨て、身近に生きるその存在に向き合うことが必要だ。

週刊朝日 2015年5月22日号