漫画『クレヨンしんちゃん』の連載がスタートしたのは、1990年。その2年後にテレビアニメがはじまり、翌年には毎年アニメ映画が製作されるなど、『サザエさん』『ドラえもん』などと同様に、国民的漫画(アニメ)として不動の地位を確立している同シリーズ。どんな困難が訪れても笑顔で乗り切る野原一家の姿に、「理想の家族像」を見る人も多いのではないでしょうか。
ところで最近、『クレヨンしんちゃん』作中のあるキャラクターに、注目が集まっているのをご存知でしょうか?
それは誰かというと、しんのすけの父・野原ひろし。
ひろしには、「だらしない」、「足が臭い」、「特に取り柄がない」と、ちょっとダメなお父さんのキャラ付けがされています。しかし、霞ヶ関の商社に勤務し、ベッドタウン・春日部に一軒家を持ち(ただし、ローンは32年残っている)、専業主婦の妻と2人の子に囲まれる生活は、実はかなりの「リア充」。
そんな野原ひろしの人物像に、より深く迫れそうなのが『野原ひろしの超名言』。ライター・編集者の大山くまおさんによる著書で、タイトル通り、ひろしが原作漫画、テレビアニメ、劇場版の中で放った名言が収録されています。
本書の冒頭で大山さんは、「ひろしはとても平凡なサラリーマンです。(中略)でも、家族に危機が迫れば、体を張って守ります」と、人柄を紹介。たとえば次の一言には、その家族愛が大いに表れているといえるのではないでしょうか。
"なんだ、そんなことだったの。いきなり踊り出すから、もっとすげぇことかと思ったぜ。そりゃ、ひと月分はちょっとキツいけど、また頑張って稼ぐさ!"
これは、妻・みさえがひろしの1ヶ月分の給料をなくしてしまったときにかけた言葉。大山さんは「妻を一度たりとも怒ったり、責めたりしないひろしの度量の大きさは、感動的でさえあります」(同書より)と評します。
また、ひろしは家庭だけでなく、職場でも同僚たちから慕われています。部下の川口が仕事でミスをしたときには、次のような言葉で慰めました。
"気にしない、気にしない。オレが明日一緒に行って、頭下げるからさ! そしたら向こうさん(註:取引先)もわかってくれるさ"
部下を使い潰す「クラッシャー上司」といった新語も登場する昨今ですが、大山さんは以上の名言を紹介しながら「エラそうなことを言うだけでは部下はついてきません」(同書より)と上司・部下の関係についても言及しています。
なお、本書の後半ではみさえやしんのすけの名言も収録。ギャグやパロディだけではないクレヨンしんちゃんの奥深さを、これらの名言から探ってみてはいかがでしょうか。