※写真はイメージです(Getty Images)

ゲノム編集技術が、著しいペースで進化を遂げている。狙った遺伝子を変異させることが可能なこの技術は、医療分野や農水産業などでの活用が期待されている。だが一方で、リスクもある。北海道大学客員教授の小川和也氏は、著書『人類滅亡2つのシナリオ AIと遺伝子操作が悪用された未来』(朝日新書)の中で、ゲノム編集技術が生態系に負の影響を与えるリスクについても言及している。本書から一部抜粋して紹介する。

【表】遺伝がもたらすものとは

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生態系の崩壊ーー〝ポストライフ〞の世界へ

ゲノムテクノロジーの影響は、人間の身体のみならず、生物や植物の生態系にまで及ぶ。生命操作は、生きとし生けるものが対象となり、扱い方によっては生態系の崩壊を引き起こす可能性がある。

 ゲノムテクノロジーの発展に特に力を注いでいる中国は、ゲノム編集関連特許数でそれまでリードしていた米国を2016年に逆転し、急速に世界の最前線となり始めている。

2015年、ゲノム編集で意図的に小型化した「マイクロブタ」を中国企業が作り出したことが発表され、2017年には世界初のゲノム編集技術によるクローン犬が中国で誕生したことが報じられた。

 さらに、新型コロナワクチンや治療薬の研究開発を目的に、中国のバイオ企業はゲノム編集によるマウスを世界中に売る。本来はマウスが新型コロナウイルスに感染することはないが、人間の遺伝子の一部を組み込むことでマウスも感染するように改造できる。買い手のニーズに合わせてゲノムの配列を決め、メスのマウスの子宮の中に遺伝情報の一部を書き換えた受精卵を移植する。この手で作り替え可能な生命創造により、自然界には存在しないマウスが大量に生み出される。

 遺伝子を人為的に操作された生物が、自然界に放出されるリスクもある。

 性別を変異させることで、マラリアを媒介する厄介者の蚊をアフリカで激滅させる「ターゲット・マラリア」と呼ばれるプロジェクトがある。英インペリアル・カレッジ・ロンドン(Imperial College London)の研究チームは、繁殖とともに特定の遺伝子を拡散させる技術「遺伝子ドライブ」を利用して、蚊の性別を決める遺伝子の劣化コピーを拡散した。

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小川和也

小川和也

北海道大学産学・地域協働推進機構客員教授。グランドデザイン株式会社CEO。専門は人工知能を用いた社会システムデザイン。人工知能関連特許多数。フューチャリストとしてテクノロジーを基点に未来のあり方を提唱。著書『デジタルは人間を奪うのか』(講談社現代新書)は教科書や入試問題に数多く採用され、テクノロジー教育を担っている。

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「遺伝子改変生物」が自然界に放出されるとき