「戦後の日本人が一生懸命に金儲けに邁進したのは、アメリカに対する復讐だった」と評論家・江藤淳が言った。1989年のバブル絶頂期には、三菱地所がロックフェラーセンターを買い、ソニーがコロンビア映画を買収。経済成長によって一時的にアメリカへの復讐は遂げたが、1990年代以降は“負けっ放し”の日本。政治学者・白井聡氏と哲学者・内田樹氏との新著『新しい戦前 この国の“いま”を読み解く』(朝日新書)の中では、現代の日本人が抑圧された反米感情をどのように持て余しているかが対談形式で述べられている。同著から一部を抜粋、再編集し、紹介する。
* * *
ねじれた日本人の反米感情
内田樹(以下、内田):安倍さんがあれだけカリスマ的なポピュラリティを得たのは、「大日本帝国」を再建して、戦争ができる国になり、「アメリカともう一度戦争をして勝つ」ということまで妄想していたからだと思います。「岸信介の怨念」があるとすれば、それは対米従属国家の完成ではなく、「大東亜戦争の仕切り直し」のはずですから。
白井聡(以下、白井):あの人にそこまで気宇壮大な妄想があったとは思えないのですが。
内田:本人がどこまで自覚的であったかは別として、安倍さんにそういう妄想を託した人たちはいたと思います。
白井:日本人の反米感情はねじくれて、わけがわからないものになっています。たとえば、いわゆるウヨクは「全部サヨクが悪いんだ」と、ほとんど論理の体を成さない、もやもやとしたどす黒い感情の塊のようになっています。なぜなら、こうした人たちは、同時に日米安保体制の強固な支持者なのですから。ウヨクのくせに。