もはやアレンジされて日本の食べ物になりつつある“アメリカン”ドッグ(画像提供/筆者)
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「I had an American dog for school lunch today!(今日、給食にアメリカンドッグが出たんだ!)」

 すごくおいしかった、と目を輝かせて帰ってきた小学2年生の娘に、「それはよかったね」と微笑むことができれば、母親として理想的だったかもしれません。しかし理屈屋の私は、ついこう言い返してしまうのでした。

「American dogっていうのは日本だけでの言い方なの。英語ではcorn dogっていうんだよ。アメリカの人はアメリカの食べ物にわざわざAmericanってつけることはないからね」

 ソーセージに衣をつけてあげたアメリカンドッグは、衣にコーンミールが含まれることから発祥の地アメリカではcorn dog(コーンドッグ)と呼ばれています。日本に入ってきた際、「アメリカのコーンドッグ」が省略されてアメリカンドッグと呼ばれるようになったのか、それとも「アメリカン」と称すると異国の洒落た食べ物感が出るからそう呼ばれるようになったのか。ともかく日本語でならいいのですが、英語で「American dog」と聞くとちょっと違和感があります。

 フランス人がフレンチトーストと言わないように、インド人がインドカレーと言わないように、日本人がジャポニカ米と言わないように、ある国の人たちが自国の名前を食べ物に冠することは通常ならありません。あえて国名を冠するのは外の人たち。あるいは国内で他地域のものと区別する必要があるときです。

 アメリカにも、そのような経緯で「American」と呼ばれる食べ物が色々あります。たとえばコーヒーのAmericano(アメリカーノ。caffè Americanoとも) 。日本では「アメリカン」とか「アメリカンコーヒー」ともいいますが、エスプレッソをお湯で割った飲み物です。1920年代にイギリスの作家サマセット・モームの作品にamericanoを飲む人物が出てきて、そのころからあった言葉ともいわれていますが、一般的になったのは第二次世界大戦中。イタリアに駐屯していたアメリカ軍がイタリアのエスプレッソを飲んだものの苦すぎて口に合わず、いつも自分たちが飲んでいたドリップコーヒーに近づけるためにお湯で割ったことからその名が付いたそうです。もともとはイタリア人が自国の格式高きエスプレッソと区別するために「アメリカン」と呼んでいたのが、イタリアのカフェ文化にインスパイアされたスターバックスなどによってアメリカに逆輸入され、今では多くのアメリカ人が引け目など感じることなく普通にカフェでアメリカーノを注文しています。

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あちらとは違うんです