本当なら、大谷翔平を観にアメリカへ行きたい気持ちは山々ですが、昔から私のオタク気質は「家の中」「部屋の中」「夜中」という3つの「中」で構成されているため、どんなに大谷翔平が好きでも、そのためにわざわざ外出し、ましてや海を越えてしまっては、せっかくの「趣味(労働や対価と無関係の時間)」を、きっと私は「仕事」に昇華させようとしてしまうでしょう。

 それではせっかくの「夏休み」が台無しなのです。これは、趣味をほとんど仕事に換えて生きてきた者にしか理解できない感覚かもしれません。大谷翔平を趣味の範囲で留めておくためには、家の中で独り試合の中継を、特に勝敗を気にすることもなく観るに限る。ただただ彼の姿が自分の眼球に映る悦びだけが得られさえすれば、それ以外の情報やストーリー、ましてや評論めいた言葉などいっさい必要ないのです。

 例えばテレビの仕事で、「今日は日大」「明日はコロナ」「週末挟んで小室圭さん」といった時事に対して、まるでカードゲームのように素早く的確な言葉を発するなんてことを続けていると、あっという間に自分の守備範囲や物の見方の角度が、日に日に狭くなっていくのを実感します。だからこそ、一定期間だけでもいいから、日々の情報や論調に背を向けて、揺るがない自分の「趣味」だけに没入してみるのです。そうすると、同じ主義主張や思想であっても、仕事で使うボキャブラリーやテンポやトーンにバリエーションが出て、より多彩で多角的な「ミッツ・マングローブ」を納品することができるというわけ。

 これはこれで、粛々と労働に勤しみ、納税義務を果たしていくための「資本管理」ではないでしょうか。

 というわけで、何度も繰り返しますが、私はここ1カ月強の国内はもとより世界情勢についてはもちろんのこと、芸能界の流行り廃りにもとんと疎い状態です。
 

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