撮影:長谷川佳江

なんで何べんも来るんや

今回、職人の撮影を始めたきっかけは神戸の下町の撮影で親しくなった喫茶店のマスターから常連客のバイオリン職人を紹介され、その仕事場を撮影したことだった。

「その写真をマスターに見せたら、『あんた、職人を撮るのうまいなあ。やっぱり、長谷川さんは職人を撮らなあかんで』と言われ、調子に乗ってしまったんですよ」

続けて、播州三木打刃物の伝統工芸士を撮影したのも偶然だった。

「鉄工所の写真展を神戸市で開催した際、播州三木打刃物 伝統工芸士会の会長さんに来ていただいた。そして、『ぜひ撮りにきてください』と、言ってくださった」

伝統工芸士会の忘年会で長谷川さんの作品のコピーが配られ、そのうちの何人かは撮影を受け入れてくれた。さらに、和ばさみを作る職人や刀鍛冶、陶芸家も撮影した。

「ただ、作品としての写真は、1回行けば撮れる、というものではなくて、何度も何度もしつこく通って作業を見なければならない。それを理解してもらうのが結構大変で。『前回と同じような作業なのに、なんで何べんも来るんや』と、と言われたりしました」

撮影:長谷川佳江

外国人は価値を認めるのに

長谷川さんは9月7日から東京・新宿のアイデムフォトギャラリーシリウスで写真展「工人(こうじん)の軌跡」を開催する。

「工人」とは耳慣れない言葉だが、それには理由があるという。

「今回撮影させていただいたみなさんは、これまでに新聞や雑誌、テレビに出られた方が多いんですよ。そこで何回も『匠、匠』と紹介されて、『もう匠という言葉はうんざりや』と、言われた。それで、『工人』というタイトルにしました」

展示作品の横にはQRコードをつけ、それをスマホで読み取ることで、伝統工芸士や職人のホームページが表示されるようにする。

「私が写した作品をとおして、製品に興味が湧いて、買ってくれたらいいな、と思うんです。手づくりの日本製の製品を使ってほしい。でないと、工芸は継承できない」と、長谷川さんは訴える。

終戦直後、三木市には1000軒近い鍛冶工房があり、復興需要を背景に大工道具づくりは活況を呈した。ところが最近は安価な製品に押され、10軒ほどに激減。後継者不足も深刻だという。

「私が生まれた昭和40年代は、ものを大事に使う時代でした。鍋1つにしても修理する人がいて、手入れをしながら使っていた。でも今は、外国からさまざまな製品が安い値段で入ってきて、使い捨ての時代になってしまった」

日用品の金物だけでなく、プロが使う大工道具も需要が大きく減っているという。

「伝統工芸士のみなさんは生き残りをかけて戦っています。でも、なぜ大工道具づくりを中心とした伝統工芸士の人たちがなんとか生計を立てていけるか、といったら、海外向けに売れているからなんです。外国人が彼らの手づくりの製品の価値を認めているのに、日本人は買わない。これはちょっとおかしいと思うんです」

長谷川さんは続けた。

「日本は資源の乏しい国だけど、世界に負けないものがある。研ぎ澄まされた技術で作られた製品もその一つで、日本独自の文化でもある。だから私は、手作業の素晴らしさを写真を通じてみなさんにお伝えしたいと思うんです」

アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】長谷川佳江写真展「工人の軌跡」
アイデムフォトギャラリーシリウス(東京・新宿) 9月7日~9月13日

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