数年前、秋田県代表の金足農業高校が大フィーバーを巻き起こした際に、「彼らには高校野球のファンタジーが完璧に揃っている」と書きましたが、「大企業に勤め、仕事を休んで新幹線で甲子園に乗り込み、伝統を振りかざして、徹底した組織力で相手校に圧をかけまくる慶応の応援団」というヒール像もまた、昔ながらの高校野球的文脈に心酔し過ぎた故のファンタジーに他なりません。
あらゆる格差を良しとせず、恵まれていると感じた側を「敵」と見做す昨今の風潮が、いよいよ高校野球にまで及ぶようになったかというのが私の感想です。
仮に、慶応の組織力が勝ちを後押ししたのだとしても、素晴らしい攻撃と守備を貫いた選手たちには堂々と胸を張ってもらいたいものです。これはこれで、今の時代の日本における「勝ち方」をひとつ証明できたのですから。「ジェット機並み」「電車が通る時のガード下」などと揶揄される大声援。丸坊主ではない自由な髪形。即日凱旋はせず、新幹線を降りた駅で解散。
高校野球のイメージ、システムが大きく変わりつつある中、そんな「変革の象徴」として、此度の慶応優勝が位置付けられるのだとすれば、まさに日本最古の私学としての本懐ではないでしょうか。
何よりも、自分の中の「愛校心」や「地元愛」を認識することで、人は己の加齢を受け入れていくのだと、つくづく思い知った次第です。