『完全版 袴田事件を裁いた男 無罪を確信しながら死刑判決文を書いた元エリート裁判官・熊本典道の転落』 尾形誠規著
朝日新聞出版より発売中

 本書を読んで、改めて裁判官の使命とは何かを考えた。

 横浜地裁のホームページに載っているリレーエッセイ「ハマの判事補の1日」第9回には、現役の判事補が中学校の職業講話に赴き、「裁判官は、最終的な『判断』を示して、世の中のもめごとを解決したり、犯罪を犯した人に刑罰を科して、世の中の治安を維持することを仕事の内容としています」と話した、と書かれている。

 この一文を目にしたときは、さすがに驚いたが、これが裁判所のホームページに堂々と載っているという事実は、かなり深刻な事態だと思う。

 映画『それでもボクはやってない』を撮るとき、本書にも登場する元裁判官・木谷明弁護士の「裁判官の使命は、『無実の人を罰してはならない』ということです」という言葉に強い感銘を受けた。この言葉をそのまま「ハマの判事補」に贈りたい。裁判官は検察官ではないのだ。せめて自分たちの仕事は「人権を守ることです」と言えないのか。

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