「あることで事務方が、『〇〇先生が極秘で会いたいと言っています』と言うてきたんや。当時、ある事件をやっていたからすぐにピンときた。事務方に『うまく断ってくれ』と言うたが、渋い顔で『法務大臣の耳にも入っているそうです』と言う。〇〇先生と大学のツテで懇意の先輩に、怒りを買わないようにうまくまるめてくれとお願いしたことがあった。〇〇先生も、それっきり何も言わなかった。その後、検事総長退任の直前かな、たまたま外出先で鉢合わせしたのが〇〇先生。こちらは冷静を装うも、向こうはニヤリとしていたな。さすが大臣を何度もやった大物や」

忖度はあかん

 土肥氏には、それまでも先輩記者のT氏とともに何度か話を聞いたことがあったが、土肥氏は検察内部の話は避けることが多かった。T氏が、

「検察のことをこんな長くしゃべるのは珍しいでんな」

 と言うと土肥氏は、

「そうやな、もうそんな話して通じる相手が少ないから。けど、黒川くんにはちょっと、言いたかったんや」

 と、ぼやくように話した。

 インタビュー当時、河井克行・元法相と妻の案里・元参院議員の公職選挙法違反事件の捜査を東京地検特捜部が進めていた。後輩へのメッセージを求めると、こう話した。

「検察とは何か、政治との関係はどうあるべきか。信頼回復には、もう一度、検察の原点に立ち返ることが、最も大切だ。忖度はあかん、それが自然とわかるはず」

 土肥氏の応接室には、大ファンだという阪神タイガースのグッズや写真が山盛りに飾ってあった。T氏が私を土肥氏に紹介してくれたのは、阪神ファンという共通点があったからだった。

 土肥氏は近年、体調がすぐれず、事務所も閉じられていた。まだまだ聞きたい話はあったが、インタビュー中に阪神の話で盛り上がりすぎて聞けなかったことがたくさんあった。ご冥福をお祈り申し上げます。

(AERA dot.編集部 今西憲之)

著者プロフィールを見る
今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

今西憲之の記事一覧はこちら