「検察の独立、これハッキリさせないとあかん。黒川は脇甘い、自覚が足りん。東京高検の検事長、次に検事総長という立場にいながら賭けマージャンやから、なおさらやな」

 土肥氏は政治家との距離の取り方には腐心してきたという。

「検事から法務省に出る、現場で頑張る検事、どちらも心の持ち方。検事としては、政治と近づきすぎてはいけない。政治家と特別仲良くなってはいけない。そういうことが評判になることも避けなければいけないのが検事の鉄則だ。定年延長を迎え、検事総長になることが濃厚になり、黒川は結果的に官邸側、政治に寄っていった気がする」

仲良くなると何か頼まれたりすると断りにくい

 土肥氏が検事総長時代、検事総長と法務大臣の部屋は同じフロアにあったという。

「検事総長になって間もなく、『そっちには行かないでください』と事務方から言われた。なぜかと聞くと、『仕切りの向こうに法務大臣の部屋がありますので、それを超えないように』とぴしゃり。検事総長をとりまく検事や事務方も、それくらい政治との距離、関係について神経をとがらせていた。会合などで法務大臣と一緒になるときもあったが、挨拶程度しかしなかった。仲良くなると、万が一、何か頼まれたりすると断りにくい。法務大臣から頼まれるということは、指揮権発動にもつながりかねない」

 土肥氏は同じ現場派の吉永祐介氏の後を受けて検事総長に就任した。とはいえ、歴代の検事総長は赤レンガ派が多くを占めていただけに、やりにくさもあったという。

「政治家と親しくなり、いろいろ相談されると法務省や検察に一言、言いたくなるもの。それが捜査などに悪影響、予断、忖度を与えてはいけません。だから、政治とは距離をおかねばならない。私は検事総長になってからは、会食があっても2次会には絶対に出席しませんでした。どこで誰が見ているかわかりませんし、政治家と鉢合わせすることも考えられますから」

 このインタビューの記事は、2020年6月17日にAERA dot.で配信した。このときは書かなかったが、土肥氏は検事総長時代のこんな話も明かしてくれていた。

次のページ
検察の原点に立ち返ること