同じ親から生まれたきょうだいにもかかわらず、全く似ていないことがある。それは生命の本質「ランダムネス(ランダムであること)」から生じるありきたりな現象だった。エンドウマメの交配実験をおこなったメンデルは、背丈やマメの色などの形質(生物学的な特徴)はそれぞれ別個に、そして組み合わせはランダムに遺伝するという「独立の法則」を発見した。行動遺伝学研究者・安藤寿康氏は、複数の遺伝子が基本的には「独立の法則」に従って受け継がれるため、実は平凡な親からノーベル賞学者が生まれる可能性もあると説く。安藤氏が上梓した『教育は遺伝に勝てるか?』(朝日新書)から一部を抜粋、再編集し、紹介する。
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プロフィールのランダムネス
2021年の東京オリンピックの女子ボクシングで金メダルを獲得した入江聖奈選手は、かえる好きで有名ですが、面白いのは、スポーツで世界一になるほどの選手にもかかわらず、鉄棒の逆上がりやマット運動がすごく苦手とおっしゃっていることです。400メートルハードル日本記録保持者の為末大選手も、向こうから飛んでくるボールが苦手で、子どものころからドッジボールが超苦手だったそうです。iPS細胞の研究でノーベル生理学・医学賞をとった山中伸弥医学博士も、手先が不器用なため手術が苦手で、ジャマナカと言われていたくらいで、だから臨床ではなく研究の方に専念したのだという逸話が伝わっています(これは謙遜にすぎないという説もありますが)。子どものころからある分野で突出した才能を示すギフティッド児が、ふつうの子ができることができないアンバランスな能力のプロフィールを見せることもよくあります。
能力やパーソナリティをつくっているたくさんの要素それぞれに違った遺伝子の影響があり、その遺伝的素質がメンデルの「独立の法則」に従ってランダムに伝達されてつくられていると考えれば、このように一見、同じ心や体の性質を使うと想像され、そろって有能さを発揮しそうな分野の中にも、意外な不ぞろいがしばしばあるということも合理的に解釈できます。