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 2025年に国内の認知症患者は700万人になると見込まれている。予防はもちろん早期発見につながる手がかりはあるのか。専門家に聞いた。AERA 2023年8月7日号の記事を紹介する。

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 6月14日の「認知症予防の日」に先立つ、11日の「予防の日」の式典では、認知症の早期発見や予防に向けた最新の取り組みも紹介された。予防学会の代表理事で鳥取大学医学部認知症予防学講座教授の浦上克哉さんは、「血管性認知症」の対策にもっと注目すべきだと発表した。

 認知症には大きく分けて「アルツハイマー型」「血管性」「レビー小体型」「前頭側頭型」などがある。このうち7割近くを占めるのが「アルツハイマー型」で、「血管性」は全体の2割ほどとされる。

「血管性認知症は、高血圧や糖尿病、脂質異常症など動脈硬化を起こすような病気がベースにあって、脳梗塞や脳出血が発症の引き金となります。病気の原因がわかっているので、ずいぶん前から『予防できる認知症』と位置づけられていました」(浦上さん)

 罹患率の高いアルツハイマー型の早期発見につながる手がかりはないだろうか。浦上さんは嗅覚に注目しているという。

AERA 2023年8月7日号より

「認知機能が低下するよりもっと前に嗅覚機能に異常が現れる、いわゆる『認知症の前段階としての嗅覚機能障害』を見つけることが、プレクリニカルアルツハイマー病の段階へのアプローチに繋がると私は考えています」

 プレクリニカルとは、MCI(軽度認知障害)の一歩手前で、認知機能は正常で症状は出ていないものの、将来は認知症になりうる早期の状態のこと。アルツハイマー型は脳内にアミロイドβとよばれる異常なたんぱくが蓄積されることで脳内の細胞がダメージを受け、認知障害が現れる。その蓄積が始まるのは発症の20年以上も前と見られているが、この段階では日常生活にほとんど支障がない。嗅覚の異常を見つけるのも難しい。

 そこで今後、活用を期待したいのが嗅覚機能検査キット「ニンテスト」だと言う。6種類の香りを嗅いで香りを選択していき、そのスコアで認知機能レベルを判定する。個人で使うものではないが、「医療機関や薬局で広がっていけば」と浦上さんは期待している。

 浦上さんは数年前にアロマセラピーと認知症予防の関連を発表し、ブームを作った仕掛け人でもある。

 製薬大手「エーザイ」が開発したアルツハイマー型認知症の新薬「レカネマブ」が7月に米国で正式に承認された。日本でも9月頃に承認されるのでは、と浦上さんは見ている。病気の進行を抑える治療薬がより身近になっていけば、認知症という病に対する意識も少しずつ変わっていくだろう。「認知症にならないようにする」だけでなく、「なったらどう生きていくか」。それも含めて「予防」なのだ。(ライター・大崎百紀)

AERA 2023年8月7日号より抜粋