マザーズは外国人妊産婦向けの講座のほか、病院や行政への付き添いや悩み相談などを実施。設立から3年で相談実績は1700件に上る

 日本で暮らす外国人のなかには、日本で出産する外国人も少なくない。2021年に生まれた新生児のうち24人に1人は父母の両方、または一方が外国人だ(厚生労働省の統計から算出)。海外の多様な出産や子育てを知る外国人ママの存在は、日本社会にとって有益だという。AERA 2023年7月31日号の記事を紹介する。

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 海外の子育てを知る母親の声に耳を傾けることは、日本の出産や育児を見直す契機にもなる。

日本で子育てをする中国人のユキさん(35)は、公園などで子どもを連れているのが母親ばかりなのを不思議に感じている。彼女の周りの中国人家庭では、共働きなら夫婦で家事育児を平等に分担するのが普通だ。

「日本では共働きでも、女性のほうが家事や育児の負担が大きい。夫婦2人の子どもなのになぜ、と思います。日本人ママは頑張りすぎで、心配です」

 マザーズのベンガル語通訳者アフィーファ・モーリック・清美さん(57)は、バングラデシュで出産と育児を経験。同国では、夫の家族や親戚が面倒を見てくれて、子どもたちは「みんなに愛されて勝手に育っていった」と話す。手伝いがほとんどない日本に里帰りしたときのほうが、子育てを過酷に感じた。坪野谷さんによれば、アジアでは産後の女性は「お姫さま」のように大事にされ、授乳以外は何もせずに心身の回復に努める国が多い。また子育てにおいても、家族や民間のサービスを気軽に頼ることができるという。

 一方、「よい母親像」を周囲に期待される日本人女性が家事育児に割く労力は大きい。現代インドネシア社会を研究し、マザーズの翻訳業務もサポートする野中葉・慶應義塾大学准教授(49)は、現地の女性と交流するうちに母親である息苦しさから解放されたと話す。

「自然分娩や母乳育児、手の込んだ離乳食など、日本では当たり前とされていることが、他国では違うと気がついたんです。日本の価値観を相対化して見られるようになれば、生きづらさを感じている日本人女性も楽になるのではないでしょうか」

 NPO法人「マザーズ・ツリー・ジャパン」の事務局長・坪野谷知美さん(51)も、海外の多様な出産や育児を知ることは、日本社会にとって有益だと考える。

「日本の子育て環境は、誰もがまっすぐ同じ方向を向くしかない『竹林』のような状態。でも、樹木や花、キノコなどさまざまな生物が共生する森のほうが土地は肥沃(ひよく)になります。画一的な日本の価値観に、外国人ママのおおらかさや知恵が混ざれば、『子育ての森』の土壌はもっと豊かになると思うんです」

(ジャーナリスト・増保千尋)

AERA 2023年7月31日号より抜粋