日本で暮らす外国人が増え、いまや国内で生まれる赤ちゃんの24人に1人は、父母の両方または一方が外国人だ。言葉や環境の壁をどう乗り越えたらいいのか。 AERA 2023年7月31日号の記事を紹介する。
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「じん・つう・が・きました」「はすい・しました」──。
6月のある週末の朝、東京都豊島区の子育て支援施設に30人近い男女の声が響く。NPO法人「マザーズ・ツリー・ジャパン」が主催する外国人妊産婦向けの講座で、参加者が出産時に使う日本語の練習に励んでいた。事務局長を務める坪野谷知美さん(51)が、「日本では陣痛がきたらまず病院に電話をします。連絡しないで行くと驚かれるので、気をつけて」と話し、中国やベトナム、ミャンマーなどの外国人ボランティアがその内容を通訳する。
7月に出産予定の妻のために熱心にメモをとっていた中国人のリュウさん(28)は言う。
「『破水』とか『おしるし』とか、初めて聞く日本語ばかりで勉強になりました。日本に住む中国人の知り合いはたくさんいるけれど、妊娠や出産について聞ける人は少ないので、中国語で日本の出産の情報を得られるのは、とてもありがたいです」
24人に1人が「外国人」
出入国在留管理庁の統計によれば、日本に暮らす外国人のうち15~34歳の若年層の人口は昨年末で約143万人に達し、10年前と比べて6割以上増加した。日本で出産する外国人も増えるとみられ、厚生労働省の統計から算出すると、2021年に生まれた新生児のうち24人に1人は父母の両方、または一方が外国人だった。こうしたなか、外国人女性の妊娠・出産への支援ニーズが急速に高まっている。外国人妊産婦の多くが日本の産科医療の質の高さに信頼を寄せる一方、言葉などさまざまな面で困難に直面しているのだ。
留学生として来日したガーナ人のナオミ・ゾトールさん(38)は長女を日本で出産した際、書類作業に忙殺されたと話す。
「日本では出産時、行政や病院から膨大な量の書類提出を求められます。産前産後は時間的にも体力的にも余裕がなく、ガーナ人の夫とウェブ翻訳を使いながら記入し、疲弊しました」
病院でのやりとりも頭痛の種だ。マザーズで講師などを務める助産師の関洋子さん(40)は、外国ルーツの住民が多い神奈川県大和市の病院に勤務していた。そのときの経験からこう話す。