全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA 2023年7月31日号にはワコール 取締役執行役員 マーケティング本部長 篠塚厚子さんが登場した。
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今年、下着メーカー・ワコールの創業家以外の取締役に最年少で就任した。
2019年にスタートしたセルフでできる3D計測サービスで、AIを活用した「3D smart & try」の開発をリードした。機械が全身をスキャンし、18カ所のサイズをわずか3秒で計測、体形特徴に合う下着のサイズが分かり、アプリでデータも残せる。
計測ルームに入室してから15分程度で終わる気軽さと、人目を気にしないで済む点が評判となり、店舗離れしていた20~30代が、計測者全体の7割にまで増えた。
入社後、ビューティーアドバイザーとして店頭に立つ経験をした。顧客の体を直接測り、商品を提案する同社の接客サービスの担当だ。
その後、異動を繰り返したが、ずっと接客の在り方について考えていた。
本来、顧客の要望を聞いて、数ある商品の中から最もよいものを一緒に探していくことが大事なはずだ。いわば女性の心に寄り添うことが仕事であり、単なるサイズだけではないと思っていた。
育休時、初めての子育ては不安ばかりで、スマホで育児方法を調べまくり、AIチャットで問題を解決した。
ママ友たちからは、下着についての悩みをよく聞いた。「産後の体形の崩れが気になってサイズを測られたくない」「よれよれの下着を見られたくない」などだ。
育休から復帰しデジタル技術を駆使して、女性たちの悩みを解決したいと、デジタル戦略部門へ異動。だが、東京での勤務はたったの1人。
それでも、描いた企画を実現するために、色々な人に「手伝って」と声をかけ、チームを作り上げた。
2年間、本当に実現できるか不安との闘いだった。だが、ママ友の悩みは、多くの女性の悩みであり、彼女たちが喜んでくれるサービスを提供し、快適に過ごしてもらうことが大事だと突き進んだ。
顧客からは、機械による、うそのない計測に衝撃や動揺の声もあった。しかし、その現実を見つめながら体形管理ができることに気づくと、何度も足を運んでいるという。
取締役になっても積極的にチームメンバーたちに「どう思う?」と聞くことを心がける。全く違う意見が出ることで、仕事の質が上がるからだという。(ライター・米澤伸子)
※AERA 2023年7月31日号