夏休みに入り、各地で悲しい水難事故が相次いでいる。7月21日には福岡県宮若市の犬鳴川で川遊びをしていた小学6年生の児童が一度に3人も亡くなった。警察庁によると、昨年7~8月の水難発生件数は459件。特に中学生以下の子どもの事故は夏に集中し、昨年の水難事故の48%がこの2カ月間に集中している。さらに子どもが溺れて亡くなるケースの約半数が「川」で起きている。筆者が実際に体験したケースを踏まえ、危険な川の特徴と溺れたときの対処法を取材した。
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「ちょっと子どもから目を離した隙に、姿が見えなくなっていた」
水難事故にあった子どもの保護者からはよくこんな言葉を耳にする。
体験したことがない人は「ちょっと目を離した隙」にそんなことになるだろうか、と思うかもしれない。
しかし、本当に人は一瞬にして、ほとんど声を上げることなく溺れ、水中に沈んでいくのだ。
5年前の夏、筆者が目撃したケースを話したい。
名古屋に近い木曽川の支流、付知川(岐阜県中津川市)。その日は100人ほどが河原でデイキャンプやバーベキューを楽しんでいた。
川幅は20メートルほど。対岸の大きな岩の下の川底が深くえぐられおり、水深は約5メートルあった。
昼ごろ、家族連れでやってきた40代くらいの男性がすぐに水に入ると、対岸に泳ぎ始めた。筆者もその後を追うように泳ぎ、男性を追い抜いた直後だった。
「その人、何か変だ!」
後方から声が聞こえた。慌てて振り向くと、すぐ後ろにいるはずの男性の姿が消えていた。水面に髪の毛だけが見え、男性は水中に沈みつつあった。
「助けてください、人が溺れています」
大声で叫ぶと、周囲にいた3人が救助に協力してくれた。手足を持って引き揚げた男性の体はだらりとして呼吸がない。
「119番通報をしてください! 意識がありません!」と、大声で叫んだ。
私たちはぼうぜんとして男性を見下ろしていた。筆者は毎年、心肺蘇生法の講習を受けてきたが、すっかり気が動転してしまい、そのことは頭から吹き飛んでいた。