
格闘技では強い者同士の戦いが名勝負になるとは限らない。そういうときに限って一方的な展開になったり、膠着状態に陥ったりすることも多い。しかし、上沼と古舘の一戦は、間違いなく日本芸能史に残るベストバウトだった。
互いに相手の力を認め合っている2人は本気でぶつかることができる。「この人はこのぐらいのことを言っても面白く返せるでしょう」と信頼しているからこそ、上沼はあえて古舘に厳しい追及をする。古舘もそれを真っ向から受け止めて、素直に反省する素振りを見せつつ、自分の考えを述べる。
1人でボケ・ツッコミをこなして笑いを取れる上沼を心から尊敬しているという古舘は、必死で食らいついていく。彼がそんな自分の様子を「松ちゃんに対するあっちゃんです」と表現したときには震えた。
率直に言って、そうそう、こういうのが見たかったんだよ、と思った。古舘は言わずとしれた当代随一のしゃべり手であり、立て板に水の話芸でどんな会話もそつなく良い感じにまとめる技術は天下一品である。いわば、逃げようと思えばどこまでも逃げられる立場にある。
しかし、この日の古舘は逃げなかった。一発でも当たれば致命傷となる上沼のコンビネーションブローをすべて受け止め、要所要所ではカウンターを放ち、対決を盛り上げた。
憧れの俳優の上川隆也と共演するときに普段の3倍の化粧をしたと話す上沼に対して、すかさず古舘が「化粧というより塗装に近い」と返したのもしびれた。
一方、笑いながらもこれに即座に反応して「そうそう、なんでやねん」と0秒でノリツッコミを返した上沼もやはりモンスターである。
トークをブルースにする男とトークをラプソディにする女の奏でるハーモニーは、聞き手の心を震わせて、言語的エクスタシーに導いていった。
両雄並び立たずが当たり前と言われる中で、両雄が見事に並び立ち、お互いを高め合いながら未知の領域に達する瞬間を見せてくれたお二人には感謝しかない。(お笑い評論家・ラリー遠田)