喉元過ぎれば熱さを忘れて大やけど(イラスト:サヲリブラウン)
喉元過ぎれば熱さを忘れて大やけど(イラスト:サヲリブラウン)
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 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。


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 ムクリ。時刻は午前6時半。あまりの暑さで目が覚めました。夜間熱中症にでもなったら大変です。意外と知られていないけれど、熱中症の約4割は夜間に発生しており、睡眠中の室温が28度を超えるとリスクが上がるとか。


 なぜこんなに暑いのかと言えば、エアコンの調子がすこぶる悪いから。いやあ、参った。実は、不調の兆しはすでに6月にありました。夏日の休日、リビングのエアコンが、うんともすんとも言わなくなったのです。


 我が家のそれは天井埋め込みタイプ。壊れたとしても、すぐに交換とはいきません。これはマズいとマンションの管理センターに連絡したところ、同様の問い合わせはないとのことで、どうやら我が家だけのトラブルです。


 スケジュールを無理くり調整し修理の人を手配してもらったあと、管理会社の人は言いました。「念のためブレーカーを落とし、再び入れてエアコンを起動してみてください」


 言われたとおりにすると、エアコンは何事もなかったように動き出すではないですか。部屋はたちまち涼しくなり、なあんだ、それなら修理は不要とキャンセルの電話をかけました。めでたし、めでたし……ではなかったね!


 喉元過ぎれば熱さを忘れて大やけどの典型ですよ。トラブルには必ず「兆し」があると人生で何度も学んだのに、目先の「楽」を取ってしまう。


 災害時には、命の危険が迫っているにもかかわらず、過去の経験から学ばなかったり、面倒くさがったり、「私は大丈夫」と正常性バイアスがかかったりして避難が遅れることがあるそうです。エアコン故障問題、まさにこれ。


イラスト:サヲリブラウン
イラスト:サヲリブラウン

 ここ数日は不具合の回数もぐんと増え、このままだとなにをやっても動かなくなる瞬間がくることは予想がつきます。しかし、正直に言えば、私はブレーカーの再起動で、この難局を乗り切ろうとしている。ホラー映画なら、私は最初に殺される役でしょう。


 振り返ると、私は予測ミスで惨事を迎えることが多い気がします。ダイエット中の「これくらいなら食べても大丈夫」を始め、人に迷惑をかけたり恥をかいたりすることになる様々な準備不足も、どこかでマズいと思いながら、やり過ごしてきた結果。


 さ、同じ轍を踏まぬよう、もう一度管理会社に電話しましょう。イヤだな、スケジュール調整が本当に面倒くさい。


○じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中

AERA 2023年7月24日号