堀口逸子さん
堀口逸子さん
この記事の写真をすべて見る

 内閣府食品安全委員会の委員を務めていた公衆衛生学者の堀口逸子さんは、新型コロナのパンデミックが始まったときリスクコミュニケーションの最前線に立った。クラスター対策班で感染動向の分析をした西浦博・北海道大学教授(当時、現・京都大学教授)から、「若い人に情報を届けるのを手伝ってほしい」と頼まれたからだ。それならSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)だと、旧知のエキスパートたちに声をかけてチームを作り、「新型コロナクラスター対策専門家」というツイッターアカウントの「なかのひと」になった。国家的緊急事態のなかで、研究者としてツイッター発信にどう取り組んだのだろう。(聞き手・構成/科学ジャーナリスト・高橋真理子)

*   *  *
――堀口さんはリスクコミュニケーションのエキスパートとして、新型コロナが始まったときにクラスター対策班に入られたんですよね。

 はい、「新型コロナクラスター対策専門家」というツイッターアカウントの「なかのひと」になりました。 

――クラスター対策班は、2020年2月25日に厚生労働省の中に設置されました。東北大学の押谷仁先生や、当時は北海道大学にいらした西浦博先生がメンバーで、感染クラスターの特定やデータの収集・解析、そして将来予測をした。そのメンバーになったわけですか?

 そうです。ただ、厚労省から頼まれたわけではなく、西浦先生から「若い人に情報を届けたい」と相談され、それならSNSを使うのがいいのではないかと、私が対策班からの情報発信のやり方を考えることになりました。最終的に、ツイッターで発信することに意見がまとまりました。

――西浦先生は数理モデルを使って「接触を8割減らすことが必要」と打ち出し、「8割おじさん」として有名になりました。以前からのお知り合いだったのですか?

 ええ。彼はドイツの研究所で研究員をしていたとき、長崎大学熱帯医学研究所(熱研)の准教授も兼務していたんですよ。私が順天堂大学の公衆衛生学教室で助手をしていたころです。長崎大は私の母校で、彼が年に何回か熱研に来たときに知り合ったのが最初の縁ですね。その後、新型インフルエンザが流行した。彼はまだ海外にいて、数理モデルを使って分析した論文を発表し、「日本のメディアに知らせたいのだけど、どうしたらいいか?」とメールが来て、アドバイスしたこともありました。

――なるほど。今回、新型コロナでまた頼られたわけですね。

 私は、コミュニケーションだけ切り離して対応するのがいいと思って、過去に一緒に仕事をした人たちに声をかけてチームを作りました。危機管理コンサルタント、広告会社の若い方、日本科学未来館のサイエンスコミュニケーター、それに広報のプロと言えばいいのかな、修士課程までは土木で、広報系でドクターを取った人とか、以前一緒に研究した心理学系の若手研究者2人、そしてリスクコミュニケーションが専門の大学教授ですね。

次のページ
アカウント名を工夫、とにかくスピーディーに