金融機関での仕事は充実していたが、よりグローバルな環境で活躍できるようになりたいという思いが強まり、21年に大手コンサルティングファームに転職した。
「課題を解決に導くため、多角的かつ正確に物事を洞察する力を磨くことが今の課題です。大学院で得たことはとても多く、仕事に生かせています」(同)
修士論文は「不法就労助長罪と共犯規定の適用可能性」がテーマで、関連する複数の法律の競合関係について研究した。鳥居さんは今も刑法の研究を続け、判例研究などの論文執筆を計画している。2歳から大学院に入るまで続けていた水泳も、大会出場に向け練習を再開した。仕事で忙しいなかでも、やりたいことに全力投球する毎日だ。
関西大学キャリアセンター事務グループの山口靖人さんは、「ビジネスの世界では、答えのない問いに向き合うことになります。専門領域の学びを深めたいと考え大学院に進学した人について、企業はその主体性や探究心を評価します」と話す。
事実上、就活は早期化しており、学部生と比べると、修士の学生は学部時代の4年間の学びに加え、卒論の執筆を通して獲得した経験値に価値があると山口さんは見る。ただし「学部で就活がうまくいかなかったから」といった消極的な理由での大学院進学は、後悔する可能性がある。
鳥居さんの修士論文を指導した葛原力三教授は「さまざまな観点から問題に取り組んでかなり論文が長くなり、大変だったと思います。よく頑張りました」と振り返る。そして「修士の学生に言うのは、2年間研究と呼べるレベルの作業をしっかりやっていれば、何かが身についているだろうということです」と語る。
葛原教授の2年次の授業では、修士論文の題材になる専門分野の文献を読んで要約し毎週報告するようにしている。特に調査能力を重視するが、プレゼンテーションの訓練にもなるという。
「刑法をそのまま扱う仕事はなかなかありませんが、法律を調べられる人をほしいという企業はあります。またあるテーマについて徹底的に調べた経験は違いを生みます。これまで修士で就職した人たちも、わりと知られている企業に入っています」(葛原教授)