裁判記録によると、朝食はパン、昼食と夕食は弁当だった。弁当は白米が主食で、漬物やうぐいす豆のほか、1グラム程度のキャベツ、コロッケなどの揚げ物がおかずだった。さらに土・日曜日に野菜はまったくなかった。男性の弁護士は「勾留中、野菜はほぼない状態だった」と語る。
入院する前の18年7月中旬、同署の職員が男性の足を確認したところ、「両足の膝の上下一帯が赤黒くなっており、歩行がつらそうな様子だった」と、典型的な脚気の症状が見られていたという。
ビタミン欠乏に詳しい静岡県立総合病院リサーチサポートセンターの田中清・臨床研究部長は、
「コロッケの中身が何だったのかはわかりませんが、毎日、違うメニューが出されていたら、こんなことは起こりません。白米がメインなのも問題で、まさに『江戸患い』ですよ」
と指摘する。
日本で脚気が広まったのは、白米が常食されるようになった江戸時代から。当時の食事は白米に味噌汁、漬物が普通で、主食の占める割合が非常に大きかったのだという
■脚気で心臓が止まる理由
ビタミンB1とは、どんな栄養素なのか。
「ビタミンは全部で13種類ありますが、特にビタミンB1は体内に2~3週間しかストックがないのが特徴で、とらなくなると割と早期に欠乏症になってしまいます」
と、田中部長は説明する。
ビタミンB1は炭水化物や脂質を分解してエネルギーに変えていく際に不可欠なビタミンで、これが不足すると、筋肉を動かすことができなくなってしまう。
「なかでも心臓は伸縮を繰り返して血液を送り出す、大量にエネルギーを消費する臓器です。そこでビタミンB1が不足すると、ポンプがきちんと機能しなくなる。つまり心不全になってしまいます」
脚気は現在でも、特定の食品にこだわった極端な偏食(ダイエットも含む)、清涼飲料水やアルコールの過剰摂取などによって引き起こされることが報告されている。