さいたま地裁(撮影・米倉昭仁)
さいたま地裁(撮影・米倉昭仁)

 留置場の食事が原因で「脚気(かっけ)」になった――。さいたま地裁は6月、埼玉県警川口署に勾留されていた男性の訴えを認め、県に55万円の損害賠償を命じる判決を出した。健康上必要な量のビタミンB1が、食事に含まれていなかったことが発症の原因と認定した。ビタミンB1の不足は、倦怠感や食欲不振、足のむくみ、さらに悪化すると「脚気心」とも呼ばれる心不全を起こす。食生活が改善された現在、脚気は過去の病気と思われがちだが、実は栄養バランスの悪い食事による脚気や、生活習慣病として「隠れビタミンB1欠乏症」が静かに広まっているという。

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 男性の弁護士などによると、男性は2017年11月に詐欺容疑で逮捕され、川口警察署の留置場に勾留された。その後、18年5月ごろから手足のしびれ、筋力の低下、腹部の異常を感じるようになり、次第に歩行が困難になった。

 そして男性は18年8月15日、手足がしびれたり、力が入らなくなったりする「ギラン・バレー症候群」の疑いで同県川越市内の病院に入院。翌16日には容体が急激に悪化し、いつ心臓が止まってもおかしくない状態に陥ったという。

 そんななか、男性の血液中のビタミンB1濃度が低下していることに医師が気づいた。すぐに補充を開始したところ、17日には全身状態が改善。1カ月後には退院することになった。

 診断された男性の病名は「脚気心、ビタミンB1欠乏症」だった。

 男性は、勾留中に出された弁当のビタミンB1不足によって脚気になったとして、県を相手に1000万円の損害賠償を求めて提訴。さいたま地裁の沖中康人裁判長は男性の請求を一部認め、慰謝料など55万円の支払いを県に命じた。

 判決は、ビタミンB1の不足が脚気の原因であることは広く知られているとし、「(県警が)注意義務を怠った」と結論づけた。

■まさに「江戸患い」

 男性の勾留中の食事はどんなものだったのか。

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野菜は「ほぼない状態」