巴山さんは14年間、精神的虐待を続けた夫から中1と小4の息子を連れて“昼逃げ”した。別居中の夫が自宅を競売にかけ、子どもの生存権を脅かす暴挙に出たからだ。今は離婚裁判中の“プレ・シングルマザー”ゆえ、児童扶養手当など福祉の支えは何もない。正社員の職を得たが、夫らしき男が会社に匿名で「殺すぞ」と電話をかけてきたことで、あっけなく馘首(かくしゅ)となった。

「小原さんに、『私にはストーカーの夫がいて、雇うと面倒くさい』と言ったのに、『ぜひ、働いてください。電話が来たら、僕が言ってやりますから』と言われ、本当に希望が見えたと思いました。この仕事が今、心の支えです」

 公営住宅に居を構え、不登校のためオンライン授業を受ける10歳の次男と、今は同じテーブルで過ごす。

「会社勤めなら、息子を一人家に置いて出ないといけない。でも、この働き方なら一緒にいられる。しかも、時給は1600円。本当にありがたいです」

 事業は確実に利益を上げ、委託継続の企業も多い。実際にシングルマザーと仕事をして、小原さんは強く思う。

「やっぱり、責任感が違う。立てた目標のために、真面目に継続してやり遂げる力は素晴らしい。在宅であっても、完全に信頼できる。『採用するなら未経験者は20代まで、子どもがいない方がいい』という“信者”が多いですが、そこには何もロジックがない」

 小原さんは曇りなき眼で、シングルマザーに人材としての価値を見いだしている。労働市場では二流、三流の価値しかなかったシングルマザーにようやく、まっとうな光が当てられた。

 巴山さんは何度もこう言った。

「シングルマザーってこれまで、謝ってばっかりだった。会社にも学校にも、そして子どもにも。それがこの働き方なら、どこにも頭を下げる必要がない」

(ノンフィクションライター・黒川祥子)

AERA 2023年7月10日号より抜粋

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