シカせんべいを与える観光客
シカせんべいを与える観光客

 逆に、観光客がシカにかまれる事故も多く起きている。コロナ禍前の2019年度には200件近くあったという。そうした、シカと人間との“トラブル”を減らそうと、県などはシカとの正しい接し方を知ってもらうための動画なども製作している。

子育てで神経質になっている母親に攻撃される恐れがあるので子鹿には近づかない」「シカが道路に飛び出してくることがあるため公園周辺では注意して運転する」といった注意事項は、地元では当たり前のことのようだ。

 一般財団法人「奈良の鹿愛護会」に尋ねると、

「奈良独特のもので、これが文化の象徴の一つではないでしょうか。裁判所や県庁まで!と他の地域の方は驚かれますが、約1300年前からシカがいる奈良ではすっかり街と一体で、溶け込んでいます」

 裁判所の「爆弾騒動」から10日ほどして再度、裁判所に行くことがあった。

 この日もシカが3頭、庭でのんびりと過ごし、それを外国人観光客が記念撮影していたので、聞くと「裁判所にシカがいるというのは珍しいので写真をとっていました」。

 全国ではシカによる農作物被害なども起きており、駆除しなければならないケースもあるようだが、ただ、奈良のこの地域にとっては、シカは共生する生き物なのだろう。

 ちなみに、「爆弾騒動」。その後の調べで段ボール箱の中身は、山上被告の「減刑」を求めるための署名の束で、危険性はまったくないものとわかった。衝撃的な事件から、間もなく1年となる。

(AERA dot.編集部 今西憲之)

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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