そして、公園周辺に生息するシカたちは「奈良のシカ」として天然記念物に指定されており、文化財なのだ。県によると、「奈良のシカ」は1200頭前後いるといい、県庁や裁判所など、この地域にある施設内には普通に入ってくるという。当然、道路も横切ってくる。
県公園課の担当者は、
「天然のシカで、飼い主や所有者がいるものではないので、制限などはしていません。奈良県ではシカと自然、人の共生を目指しており、日常的な風景です。たまに工事などがあると、シカよけの柵などで近寄らないようにすることもありますが、あくまで安全上のためです」
と話す。
観光でシカせんべいを与えているような風景はよく知られているが、奈良県にとってシカは特別な存在であり、昔から大切に守られている。
朝日新聞の記事によると、奈良のシカの始まりは千年以上前の奈良時代にさかのぼる。
平城京に都ができたのが710年。それから数十年後に、鹿島神宮(茨城県)から神が白いシカに乗って三笠山(公園の一部)の山頂に降臨した。この神を世界遺産の春日神社でまつっており、奈良のシカは神の使いの「神鹿(しんろく)」とされるようになったという。
その後もシカは大事に扱われ、残っている記録では、室町時代には神鹿を殺したものは死刑に処されるほどで、江戸時代にも打ち首とされたという。その後、明治時代には鹿園ができたり、住民や春日大社が保護会を作ったりして、太平洋戦争などで一時は激減したものの、その後も保護活動を続け、1957年に天然記念物に指定されたそうだ。
奈良県弁護士会所属の弁護士に聞くと
「奈良では人がシカをたたくなどして傷つけたといった話がたまにあり、警察沙汰になっているケースもあります。犬や猫の場合なら動物愛護法違反ですが、奈良のシカは国の天然記念物なので、文化財保護法違反が適用されます」
実際、2021年3月には、奈良公園でシカを死なせたとして、文化財保護法違反容疑で20代の男が逮捕されている。