やけど治療中の兼平竜也さん。着火剤による事故が少しでも減ってほしいとの思いから、治療中の画像を提供してくれた
やけど治療中の兼平竜也さん。着火剤による事故が少しでも減ってほしいとの思いから、治療中の画像を提供してくれた

 治療中の兼平さんを写した写真を見せてもらうと、顔全体はガーゼで覆われ、なんとも痛々しい。

「治療薬を塗り直すため、ガーゼを交換すると、黄色い体液がドロドロと流れ出てきた。子どもたちからは『パパ、怖い』って言われて悲しかったですね」

 さいわい、やけどの治療は順調に進み、顔の皮膚も完全に回復した。

 大学時代から親しんできたバーベキューは今も続けている。ただ、着火剤は安全性の高い木質のものに切り替えたという。

■なぜ事故がなくならないのか

 消費者庁が2015年に行ったバーベキューに関する意識・行動調査によると、バーベキューで使用する加熱調理器具(複数回答可)は炭(薪)グリル83.2%、バーベキュー用のガスグリル20.1%、カセットコンロ18.0%、電気コンロ3.5%と、圧倒的に炭や薪を燃料として使うケースが多い。

 さらに、「1度火をおこした後で、火の勢いが弱いときにゼリー(ジェル)状の着火剤を継ぎ足して使ったことがありますか?」という問いに対して、「はい」は33.5%、「いいえ」は66.5%。3人に1人が着火剤を継ぎ足し使用した経験があることがわかった。

 ジェルタイプの着火剤には揮発性が高く引火しやすいメチルアルコールが使われている。そのため容器には「燃焼中の継ぎ足し厳禁」と書かれている。消防庁も継ぎ足し使用の危険性について繰り返し注意喚起を行ってきた。

 にもかかわらず、バーベキューでの着火剤による事故はなくならない。

 日本バーベキュー協会の下城民夫会長は「着火剤の危険性を訴えるだけではなかなか事故を防げません」と指摘する。

「着火剤による事故が起こるたびに取材を受けますが、『着火に手こずった』ことが遠因であることがとても多い。つまり、着火剤だけが燃えて炭に火がつかず、もう一回、着火剤を投入して事故が起こるわけです」

■火の玉となって飛び散る

 典型的な着火の失敗は、グリルに入れた炭の上に着火剤を塗ってしまうことだという。

「それにライターやマッチで火をつけると、着火剤から炎は上がりますが、その下にある炭には燃え移らない。そのうち着火剤が燃え尽きてしまう。そうすると、いけないことだとわかっていても、もう1回、着火剤を投入したくなってしまうわけです」

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着火剤はジュクジュクと燃える