篠崎和子さん=東京大学農学部の居室
篠崎和子さん=東京大学農学部の居室
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 動物と違って自分で動けない植物は、寒さ、暑さ、乾燥、といった「環境ストレス」にどうやって耐えているのだろうか。その仕組みを分子レベルまで分け入って解明してきた篠崎和子さんが今年、日本学士院賞に選ばれた。夫の一雄さん(74)との共同受賞である。

【写真】組み合わせが理想的!共同研究で成果を残した篠崎夫婦

 ずっと同じ研究室にいたわけではない。夫は長く理化学研究所で働き、妻は農林水産省の研究所で約10年働いたあと東京大学教授になった。妻は「一つのことにのめり込んでいく」タイプ、夫は「新しいことに飛びついて、どんどん広げていく」タイプ。そういう組み合わせが「ちょうど良かった」と振り返る。(聞き手・構成/科学ジャーナリスト・高橋真理子)

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――ご受賞おめでとうございます。日本学士院に聞きましたら、ご夫婦の共同受賞は自然科学系では初めてだそうです。

 そうですか。共同研究者であり、夫でもある篠崎一雄と一緒に受賞できるのは大変嬉しく、またありがたく思っています。昔は夫婦で研究しちゃいけないと言われたこともありましたけど、今はそういうことは言われませんね。良い時代になったと思います。

 私が研究を始めたのは45年以上前ですが、そのころは植物のゲノム(細胞の核にあるDNAの全体のこと)には全然手がつけられていませんでした。遺伝子の研究はもっぱらゲノムサイズの小さいウイルスを使っていた。ウイルスは私たち真核生物に感染するのですから、ウイルスの遺伝子を調べれば高等生物の遺伝子のこともわかると考えられていました。

 私は名古屋大学では葉緑体のDNAの全構造解析に加わりました。葉緑体の中にもDNA があって、それは細胞核の中のDNA よりずっと小さいんですが、それでも塩基配列を決めるのに何年もかかりました。配列を決めるには、薄いゲル(ゼリー状の物質のこと)を一枚一枚手作りして、それに2000ボルトの高圧をかける。間違って電極を触って飛ばされた人もいるという噂があるぐらい、危険もある実験でした。

 その後、米国のロックフェラー大学に留学してシロイヌナズナに出合いました。植物の中で一番ゲノムサイズが小さいので、米国ではこれをモデル植物としてみんなで研究しようという機運が盛り上がっていて、私たちは日本にタネを持って帰りました。

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もう自分たちの時代は終わりが近づいている