次に「お待たせいたしまして」とわびる雅子さまの声が聞こえ、陛下が「歌舞伎界の発展のために大変なご尽力を」と会話の口火を切った。すると仁左衛門さん、こう返した。「できましたらお芝居のほうへも、おみ足をお運びくださいますようお願いいたします。みんなの励みになりますので」。おみ足=御御足。「御」が重なっている。この後、仁左衛門さんはこんなことも言った。「雨の中をお出ましくださいまして、本当にありがとうございます」
人間国宝が口にした「おみ足」と「お出まし」は耳に心地よく、それと同時に、昭和と皇室の関係性を表す表現でもあると感じた。仁左衛門さんは1944(昭和19)年生まれ。勧められても傘を差さず、一度だけ白いハンカチで雨をぬぐっていた。
対比的だったのが、2000(平成12)年生まれの伊藤さんだ。両陛下を前に臆することなく、懸命に語っていた。高揚もしていたのだろう、それが楽しそうに見えた。「御」を重ねる仁左衛門さんと、「お母さんトーク」をする伊藤さん。どちらがどうというのではない。皇室との距離感が、まるで違うのだ。
ささやかな感想でしかなく、だから何だと聞かれても答えられない。だが、これからの「皇室と国民」を考えるのに外せないことのように感じる。関係性を築く、その対象となる国民を見つめることは、とても大切だと思うからだ。
陛下と雅子さまは、初めて主催した園遊会で何を思っただろう。皇室の情報発信強化のため4月に新設されたという宮内庁広報室が、知らせてくれたらよいのだけど。