他の専門家はどうか。戦史・紛争史研究家の山崎雅弘さんはタイム誌の表紙についてこう見る。
「インタビュー記事は内容に即したタイトルをつける必要があります。その部分に関しては、岸田首相の言葉に沿ったタイトルに変更するのは妥当です。他方、表紙の文言については、様々な事実を分析し、首相の全体的な姿勢を論評したもの。つまり、アメリカのタイム誌から見て、日本は軍事大国化に舵を切ったと見えるということです」
さらに、山崎さんは「これは日本の安保政策の現状を表した的確な表現」だと感じているという。今の日本は、ある一面では1930年代の日中戦争前の状況に似ているそうだ。
「政府は、大日本帝国時代と同様に、軍備強化で外敵から国を守るというストーリーありきで、『国防』という勇壮な大義名分に酔って、法律変更や新たな法制化を拙速に進めているように感じる。いわば『国防酔い』のような状況です。防衛費の2%への増額も、日中戦争の数カ月前に可決された軍事費増大の『膨大予算』を彷彿とさせる。冷静で抑制的な議論がないまま、安保政策が大きく転換されていくことに危機感を覚えます」
特に山崎さんが大きな転換点だと感じたのは、昨年の12月の閣議決定で、敵基地攻撃能力の保有を認めたことだ。
「政府の言う『敵基地攻撃能力の保有、反撃能力の保有』は問題点を曖昧にする表現ですが、これは『外国攻撃能力の保有』であり、対外戦争や武力による威嚇を可能にするもので、平和主義の専守防衛を完全に逸脱する決定です。また、政府は中国と北朝鮮の脅威を声高に叫びますが、実際には両国が軍事力を向けている対象は日本ではなく、アメリカです。日本が外国攻撃能力を持てば、日本は両国にとっての攻撃対象になります。国民的な議論がないまま、事実上の軍事大国化が進んでいる。メディアも問題の本質を伝えきれていないと感じます」
朝日新聞が昨年12月に公表した世論調査によると、「敵基地攻撃能力」を自衛隊が持つことについて、56%が賛成、反対は38%となっている。タイム誌が「軍事大国」と見た日本の政策は、日本国民が望む方向なのか。いま改めて考えるべきだろう。
(AERA dot.編集部・吉崎洋夫)