物議を醸している岸田首相の表紙。タイム誌のTwitterより
物議を醸している岸田首相の表紙。タイム誌のTwitterより

 米国政治に詳しい上智大の前嶋和弘教授は「記事を読むと岸田首相は『平和主義を放棄する』と言ってはいない」と指摘するものの、「表紙や元々の記事タイトル」については「アメリカの政策関係者や研究者の見解を端的に表している」という見方をする。

 岸田首相はこれまでの安全保障政策を大きく転換してきた。昨年12月に閣議決定で、安保関連3文書を改定し、敵のミサイル発射基地などをたたく「敵基地攻撃能力(反撃能力)」を保有することを明記した。防衛費についてもこれまでGDP比1%に収めていたが、2027年度には2%に増額する方針を決めた。

 前嶋教授はこう説明する。

「昨年の安保3文書の改定を受けて、アメリカの専門家のほとんどは『日本はようやく自国の安全保障に本気になった』と見ています」

 それを踏まえ、今回のタイム誌を次のように読み解いた。

「記事の中の写真では、暗い背景の中で鋭い目の岸田首相が映っています。記事の見出しは穏当なものに変わりましたが、写真は依然として『強い意思で軍事力の強化を急いでいる』という岸田首相に対するアメリカのイメージを表していると思います」

 前嶋教授によると、岸田首相が取り組んでいる安保政策の転換は、アメリカの専門家の間では高く評価されているという。実際、今回の表紙が公表された際、エマニュエル駐日米国大使は「『TIME』誌の表紙を飾った岸田首相にお祝い申し上げます! 開発、外交、そして抑止力。首相は国内だけでなく日米同盟に関してもリーダーシップを発揮しています」と賛辞を送っている。

「アメリカは中国が台湾に進攻したら、アメリカも武力介入する姿勢を見せています。日本は中国の侵攻をけん制する役割を持っており、安保3文書の改訂、国防費の増額もそのためものです。ここ数年は日本とアメリカは軌を一にした安保政策を進めており、この動きはアメリカの世論も歓迎するものでしょう」(前嶋教授)

 一方の日本では「この点の議論が十分になされておらず、国民の認識は追いついていない」と前嶋教授は指摘。

「表紙の文言を見たら、多くの人が驚くでしょう。サミット前にうまくPRする機会にしたかった岸田首相からすれば、想定外の内容だったのではないでしょうか」

次のページ
政府・自民党は「国防酔い」?