5月31日、軍事偵察衛星を搭載したミサイルを発射した北朝鮮。経済活動の落ち込みや硬直化した国家運営、そして金正恩総書記の健康不安など停滞感が漂っている。AERA 2023年6月26日号の記事を紹介する。
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北朝鮮の現状はどうなっているのか。
金正恩(キムジョンウン)氏が権力を継承した11年末以降、北朝鮮経済は一時期好転したものの、現在は低迷が続いている。韓国銀行によれば、北朝鮮の実質国内総生産(GDP)の成長率は、20年が前年比マイナス4.5%、21年が同マイナス0.1%だった。
韓国の情報機関、国家情報院は5月31日の国会情報委員会で、北朝鮮で餓死者が平年の3倍に、自殺者も1.4倍にそれぞれ増えていると報告した。トウモロコシの価格が昨年1~3月期の1.6倍、コメの価格が同1.3倍に値上がりしている。国際社会による制裁や自然災害に加え、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための国境封鎖のため、経済活動が大きく落ち込んでいる模様だ。
ただ、原因はそれだけではなさそうだ。北朝鮮大使として2度平壌に赴任したドイツの元外交官、トマス・シェーファー氏によれば、北朝鮮では08年ごろから16年ごろまで、軍事開発や内部統制を強調する強硬派と中国などとの関係改善や市場経済の一部導入を訴える穏健派との間で権力争いが続いた。韓国銀行によれば、北朝鮮の経済成長率は11年から14年までは前年比1%前後の低い伸びを示した後、16年には好調な中朝貿易に支えられて同3.9%増を記録した。
だが、張成沢(チャンソンテク)元国防副委員長が13年12月に処刑されるなどして、強硬派が16年までに権力闘争に勝利し、現在の硬直した国家運営につながっているという。
韓国統一省によれば、北朝鮮は昨秋、穀物の生産と流通を国家が統制する新政策を導入した。市場での食料の取引を禁じ、市場価格より若干安い「糧穀販売所」での販売を目指した。市民は安く買いたたかれる糧穀販売所への食料売却を嫌がり、闇市場などで食料を売買している。糧穀販売所での食料供給が滞り、山間部など物流が悪い場所では餓死者も発生しているという。中国の税関統計によれば、昨年末から北朝鮮の中国からの食料輸入量が急増している。1~3月のコメ輸入量は約7万6千トンにのぼったが、食糧事情の劇的な改善には結びついていない。