ライオーン・マカヴォイ監督(左から3人目)が制作した作品は、トロント・ドキュメンタリー映画祭をはじめ海外の映画祭で数々の賞を受賞。5月に開催された第1回横浜国際映画祭にも招待された(写真:ライオーン・マカヴォイさん提供)
ライオーン・マカヴォイ監督(左から3人目)が制作した作品は、トロント・ドキュメンタリー映画祭をはじめ海外の映画祭で数々の賞を受賞。5月に開催された第1回横浜国際映画祭にも招待された(写真:ライオーン・マカヴォイさん提供)
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「豊かな国ニッポン」で、なぜ? カメラを回したきっかけは、豪出身プロレスラーの驚きと憤りだった。監督のライオーン・マカヴォイさんは「この作品は日本人には絶対に作れなかった」と語る。AERA 2023年6月19日号より紹介する。

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 日本の母子家庭の実情を世界に発信する異色のドキュメンタリー、「The Ones Left Behind:The Plight of Single Mothers in Japan(取り残された人々:日本におけるシングルマザーの苦境)」が完成した。監督は豪州出身で日本在住18年のライオーン・マカヴォイさん(41)。「藤原ライオン」のリングネームを持つ現役プロレスラーでもある。

 マカヴォイさんは幼い頃から合気道やキックボクシングに親しみ、大学時代に交換留学で来日。母国にはないプロレスの世界に魅せられた。英語教師をしながらチャンスを掴み、2013年、31歳でプロレスラーとしてデビューした。

■「しょうがない」に驚き

 2年後、やはり幼い頃からの夢だった映像の仕事を始め、BBCやNHKワールドの仕事を請け負うように。初の長編ドキュメンタリーのテーマと出合ったのは、21年秋のことだ。

「たまたま知り合いのシングルマザーが、元夫から養育費をもらえず、子どもが病気になったりして困窮していたんです。僕は『そんなに大変なのにどうして誰にも助けを求めないの? 元夫とは闘わないの?』と聞きました。そしたら『それはできない。しょうがない』と。『え?』と驚いたのが始まりでした」

 調べてみると、日本のシングルマザーの平均年収は200万円台にとどまるのに、生活保護を受給しているのは7人に1人しかいなかった(11年時点。21年は10人に1人)。さらに、日本のシングルマザーの就業率は85%超と先進国中で最高なのに、半数以上が貧困ライン以下で暮らしていると知った。

「シングルマザーは世界中にいますが、日本のシングルマザーの状況はひどすぎる。『テクノロジーが進んだ裕福な国』と思われている日本で、なぜこんなことになっているのか、実態を取材したいと思いました」

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