
当初、5月9日に公開された電子版にも同じ見出しがついていたが、日本政府からの申し入れにより電子版は、
「岸田総理大臣は平和主義だった日本に、世界の舞台でさらに積極的な役割を与えようとしている」と、トーンを弱める表現に変更された。
■戦争を行える国に
だが、憲法学者で学習院大学の青井未帆教授は、「憲法論からの切り離しは最終段階にあり、大軍拡が始まった」と指摘する。
「この間の動きが実際に始まったのが、2012年末からの第2次安倍政権下だと思います。翌年の12月に特定秘密保護法が制定され国家安全保障会議(NSC)が設置、国家安全保障戦略も策定され、翌14年には集団的自衛権の行使が容認されました」
中でも集団的自衛権の行使は、日本への武力攻撃がないのに武力を用いることができるとしたもので、戦争放棄・戦力不保持、交戦権の否認を掲げる憲法9条の構想と根本でぶつかる。しかし、安倍政権は閣議決定で憲法解釈を変更した。
「こうして安全保障論が憲法論から切り離され政策論で進められ、国会や裁判所などによるチェックが入らない状態になりました。その一つの区切りとして、昨年末に安全保障3文書が改定されました」(青井教授)
安全保障3文書とは、国の安全保障に関する「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の三つを指す。相手国の司令部なども攻撃対象とする「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有が明記され、防衛費は国内総生産(GDP)比2%に達するようにすることなどが盛り込まれた。
「3文書の改定は、憲法9条の下で『専守防衛』を基本にしてきた日本の安全保障政策を変える重大な政策転換でした。それにもかかわらず、閣議決定によって決められ、憲法論は実質的に行われませんでした。こうして日本は、戦争を行える国になりました」(同)
(編集部・野村昌二)
※AERA 2023年6月12日号より抜粋