純資産総額で見ると1位の「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」が1兆916億円、2位の「楽天・全世界株式インデックス・ファンド」が2863億円。Tracersは3億円で“巨人”を追う(5月19日現在)
純資産総額で見ると1位の「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」が1兆916億円、2位の「楽天・全世界株式インデックス・ファンド」が2863億円。Tracersは3億円で“巨人”を追う(5月19日現在)
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 新しいNISAの本命の一つ「全世界株式」で激安信託報酬の投資信託が登場。なぜこんなに安くできるのか、そのカラクリを運用会社に直接取材した。AERA 2023年6月5日号の記事を紹介する。

【図表】全世界株式の隠れコストを丸裸にした表はこちら!

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 4月26日に設定された投資信託「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」(以下、トレイサーズ)。4月10日に、この投資信託の有価証券届出書が提出されて話題になった。これまで世界中の株に投資する「全世界株式」の投資信託は信託報酬0.1%台が最安だったが、トレイサーズは0.05775%とほぼ半額の水準だったからだ。

 全世界株式で人気首位は「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」で信託報酬は0.1133%以内。eMAXIS Slimは“業界最低水準の運用コストを将来にわたって目指し続ける”とうたい、他社の動向に合わせて機敏に信託報酬を引き下げてきた。

 この投資信託を運用する三菱UFJ国際投信はトレイサーズに追従したか? 結論からいうとノーだ。その対応は早く、4月13日付「eMAXIS Slimシリーズの基本理念について」というお知らせで値下げしない理由が明らかになった。

「弊社のeMAXIS Slimシリーズでは信託報酬に含めている『ファンドの計理業務』、『目論見書・運用報告書の作成に係る費用』、『対象指数(インデックス)の商標使用料(ライセンスフィー)』などを信託報酬とは別にファンドに請求しているものもあります」(原文ママ)

■追従引き下げはしない

 勝手に意訳すると、こうだ。

「計理業務(日々の基準価額算出など)、目論見書などのパンフレットを作るコストなどを信託報酬とは別で取る投資信託は実質的にeMAXIS Slim 全世界株式より安いとはいえない。今回は値下げしません」

 そう、トレイサーズ全世界株式の目論見書には、信託報酬以外に「その他の費用・手数料0.1%を上限とする金額」がかかると明記されている。つまり信託報酬0.05775%+その他費用0.1%以内=0.15775%(最大)。eMAXIS Slim全世界株式は信託報酬0.1133%以内+売買手数料や税金も含めたトータルコストで見て、現状でこれより高いとは言い切れない。だから信託報酬を変えないというわけだ。

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中島晶子

中島晶子

ニュース週刊誌「AERA」編集者。「AERA」とアエラ増刊「AERA Money」の編集担当。投資信託、株、外貨、住宅ローン、保険、税金などの経済関連記事を20年以上編集。NISA、iDeCoは制度開始当初から取材。月刊マネー誌編集部を経て現職

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