
坂田さんが撮影したアエラの表紙は1300点を超える。そのバトンを受け取り、16年4月18日号から表紙フォトグラファーを担うのが、写真家の蜷川実花さんだ。今年で8年目を迎えるが、表紙撮影の依頼があった日のことを今でもはっきりと覚えている。
「すぐに『やります』と答えたけど、その重さをすごく感じました。ポートレートを撮る写真家にとって一番の到達点のような雑誌でもあったので、アエラの持っているトーンを引き継ぎながら、新しいアエラをつくっていけたらと強く思ったんです」
蜷川さん自身も、かつてアエラの表紙を飾った一人でもある。09年に被写体としてのオファーが届いたとき、「ついに表紙に!」と実家に電話をかけるほどうれしかったという。
「だからこそ、『出たい』と思ってもらえる場所にしなければと思いながら撮り続けています」
■「今の顔」を表現する
俳優の渡辺謙さんをはじめ、小池百合子東京都知事や歴史家のエマニュエル・トッド、野球選手の大谷翔平などを撮り下ろした。表に出て自分を見せることが生業の人もいれば、そうでない人もいる。どちらであってもその人らしさを引き出し、「今の顔」を表現する。
被写体が見せたい姿と、読者が見たい表情。その人らしい顔か、意外な一面を切り取るか。
「難しさやプレッシャーもありますが、撮るときはその方のファン代表のような気持ちで挑んでいます」
被写体のオーラを強烈に感じたのは、作家の瀬戸内寂聴さんの撮影でのこと。ライティングも特殊なことはせず、カラーペーパーだけの簡素なものだが、不思議な存在感を放つ。
「すごく印象に残っていて、ああ撮れてよかった、と今でも思う一枚です」
数々の著名人が表紙を飾ったアエラだが、実は人以外にもフォーカスを当てている。なかでも蜷川さんにとって思い出深かったのが、ウルトラマンだという。
「中に人が入っているわけでもないし、いわば塊じゃないですか。でも、つくった人の情熱がものすごく詰まっている造形をしていた。イレギュラーな撮影だったけど、おもしろかったです」
書店やコンビニ、駅の売店にも並ぶアエラは、「誰でもアクセスできる」雑誌。だからこそ、良質なものにしなければという使命感もある。
「閉じたクリエイションではなく社会にあふれていくものだから、責任重大。外に一歩出ればいろんなものが目に飛び込んでくるし、少しでも美しいものを届けたい」
(編集部・福井しほ)
※AERA 2023年5月29日号