
都内在住の会社員男性(35)は、あるときツイッター上で見たタワマン文学が、まさに自分だと感じたという。北海道の高校から青山学院大学に進学。卒業後は大手メーカーに就職し、28歳のときに戦略コンサルティングファームに転職した。年収は1200万円ほど。住居はタワマンではないが、都心の人気エリア。マッチングアプリを使えばデート相手にも困らない。
「学生時代の友人と飲んだら『稼いでるんでしょ』とか『すごいね』とか言われるし、その自負もあります。でも、仕事で成果を出し続けなければならないプレッシャーで胃が痛み、自分の何倍も稼ぐ人に出会うことも多い。仕事に追われるなか、『これでいいのか』と不安になります。なのに、弱音を吐く場がない。タワマン文学を読むと心がざわつくというか、えぐられますが、苦しんでいるのは自分だけじゃないと思えます」
そんな中流層の苦悩について、橋本教授はこう指摘する。
「社会の格差が拡大し、階層意識が固定化しています。高度経済成長の時代は、貧しい家庭に生まれても新中間階級へと上昇移動するのはよくあることでしたし、周りも多くは『下から上がってきた』人でした。しかし今の時代、努力して成功をつかみ、上昇移動したとしても、周りはもともと格差社会の上の方で暮らしていた人々で、自分より上がいくらでもいる。豊かになったと思えずに自己意識は低いままで、苦悩しやすいと言えるでしょう」
(編集部・川口穣)
※AERA 2023年5月29日号より抜粋