
タワマン住民の格差や焦燥を描く「タワマン文学」作品が売れている。心をえぐられながらも、ついページをめくってしまうのはなぜなのか。AERA 2023年5月29日号の記事を紹介する。
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<天を衝くようなタワマン上層部は雨に煙(けぶ)りながら曖昧に光を放っていた。高層階の住民ご自慢の眺望も、こんな日は何も見えないんだろうな。まあ低層階のウチには関係ない話だ──>
(外山薫『息が詰まるようなこの場所で』から)
タワーマンションなどを舞台に都市で暮らす人々の格差や焦燥を描いた、通称「タワマン文学」の勢いが止まらない。ツイッターに投稿される短編形式の物語が2021年ごろからたびたび話題を呼び、ベストセラーも複数誕生した。ツイッター上では、時に露悪的な表現を多用し、不快だという感想も目に付く。それでも、「幸せについて考えさせられた」と心に深く刺さる人も少なくない。
主に描かれるのは、首都・東京で生活する中流からアッパーミドル層の人々だ。名門私大を出て大手企業に勤め、世帯年収は1500万円超。「成功の象徴」とも言われるタワマンや都心部に居を構える。恵まれた生活を送る成功者とみられるが、その内実は多くの人がイメージする「富裕層」ではない。決して広くないタワマン低層階の住宅ローンを返済するために働き、超競争社会の中で疲弊していく。そんな人々の日常が、時におもしろおかしく、時にくさすように描かれる。
■中流層自身にも刺さる
格差社会の研究を続ける早稲田大学の橋本健二教授(社会階層論)は、タワマン文学隆盛の背景についてこう語る。
「中流からアッパーミドル層は多くの人にとって、『自分にも手が届いたかもしれないプチ富裕層』です。ビル・ゲイツや大谷翔平には嫉妬しなくても、手が届いたかもしれない存在は嫉妬の対象になる。それをある意味パターン化して笑い飛ばすのが痛快なのでしょう」
一方、タワマン文学は「笑いもの」にされている中流層自身にも刺さっている。