「世界10大リスク」の発表で知られる米調査会社ユーラシア・グループ。同社の創業者であり国際政治学者のイアン・ブレマー氏がウクライナ戦争における米国の立ち位置について語った。AERA 2023年5月22日号の記事を紹介する。
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米中関係についてここ数年、「新冷戦」という見方をする人がいます。しかしバイデン大統領は冷戦を望んでいません。米中間における貿易での相互依存度は過去最高レベルに達し、政治・外交分野で敵対関係になれば互いに深刻なダメージを受けてしまう。もちろん米国の同盟国も中国との戦争を望んでいません。日本は米国との強固な軍事関係を築く一方で、中国とはより強力な経済関係を望んでいます。これは韓国にもオーストラリアにもドイツにも当てはまります。フランスも自国企業のCEOを中国に連れてトップセールスを行っているでしょう。特にマクロン大統領は、米国に依存しない三つ目のスーパーパワー(第三極)にEUがなることを望んでいます。
仮に米国と中国が戦おうとしたところで二国間だけでは冷戦にはならない。他の国々がかかわっていなければ冷戦になりようがないのです。91年のソ連崩壊まで世界は東西二つのブロックに分かれ、各国はいずれかの陣営について対立していましたが、今はそのような状況にありません。
ソ連崩壊当時、「核の均衡」は守られたと西側は安堵しました。しかしロシアは非核化せず、核兵器を所有したままでした。ですから、米中関係よりもむしろ米ロ関係のほうが不安です。ウクライナでの代理戦争は冷戦期よりもはるかにひどい状態です。この先たとえ停戦を迎えたとしても、それは「凍結状態」に過ぎないので、ロシアとの間に和平はありません。
■もはや「手本」ではない
バイデンは、ウクライナ戦争について、「ロシアの専制から自由や民主主義を守る戦い」と位置づけています。プーチンを「専制君主」「独裁者」と名指し、理念や世界観の対立であると強調しています。バイデンが80歳という高齢であり、人生の大半を民主主義vs.独裁主義という構図の世界で生きてきたから仕方ない面があるかもしれません。けれども21世紀の世界において、「民主主義と独裁主義との戦争」といった見方は間違いです。