イアン・ブレマー(Ian Bremmer)/1969年、米マサチューセッツ州出身。国際政治学者。世界の政治リスクを分析する調査会社「ユーラシア・グループ」社長。同社が毎年示す「世界10大リスク」で2023年の1位に「ロシア」を挙げた(撮影/大野和基)
イアン・ブレマー(Ian Bremmer)/1969年、米マサチューセッツ州出身。国際政治学者。世界の政治リスクを分析する調査会社「ユーラシア・グループ」社長。同社が毎年示す「世界10大リスク」で2023年の1位に「ロシア」を挙げた(撮影/大野和基)

 3月20、21日には、プーチン大統領と中国の習近平国家主席による首脳会談がモスクワでありました。この会談で中国は、ロシアに対して12項目の和平計画を提案しました。中ロ関係は昨年の冬季北京五輪開幕時に両首脳が会談したときの状態に戻っていると思います。中国がロシアを支援するための強力なパートナーシップを築いている。

■中ロが団結する理由

 その一方で、中国はウクライナ危機において必要以上にヨーロッパを敵視しないことにアドバンテージを見いだしてもいます。「戦争にかかわるな」ということを意味しています。

 ロシアへの和平提案は、中国が「戦争の調停者」と見られたくて行ったにすぎないでしょう。中国はロシアに和平交渉のテーブルにつくよう積極的に働きかけたわけではないのです。ウクライナのゼレンスキー大統領に対しても同様です。フランスのマクロン大統領はこの和平案を支持していますが、中国はこの件についてヨーロッパからあまり信用されていないでしょう。もっとも、ヨーロッパでビジネスを続けるのに大きな信用は必要ありません。

 NATO(北大西洋条約機構)は対ロシアでは90%の団結があるのに対し、対中国では60%しか団結していません。中国はそのギャップにつけこんで国際社会における存在感を示そうとしています。西側がヨーロッパやユーラシアにおけるロシアの影響を封じ込めようとしているのと同様に、西側はアジアでの中国の影響を封じ込めようとしていると中国自身が信じている点で、中国の世界観はロシアと似ています。それが中ロの団結する理由の一つです。

 中国はロシアよりはるかにパワフルです。両者を比較すれば、経済・戦略・外交いずれも中国のほうが上です。我々が知る限り、中国は米国による対ロシア制裁を破っていません。ロシアへの重要な軍事支援をしていないのです。最大の理由は、そんなことをすれば深刻な制裁を科され、ヨーロッパを敵に回すと中国が理解しているからです。

(構成/国際ジャーナリスト・大野和基)

AERA 2023年5月22日号より抜粋