3月20、21日、習近平国家主席が訪ロし、プーチン大統領との首脳会談が行われた。中国はロシアに対して12項目の和平計画を提案(写真:ロイター/アフロ)
3月20、21日、習近平国家主席が訪ロし、プーチン大統領との首脳会談が行われた。中国はロシアに対して12項目の和平計画を提案(写真:ロイター/アフロ)
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「世界10大リスク」の発表で知られる米調査会社ユーラシア・グループ。同社の創業者であり国際政治学者のイアン・ブレマー氏は、ウクライナ戦争の現状をどう見ているのか。米国、ロシア、中国それぞれの思惑や今後の展望について語った。AERA 2023年5月22日号の記事を紹介する。

【写真】イアン・ブレマー氏

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 米機密情報の漏洩が4月9日、明らかになりました。この中には昨年9月、ウクライナ南部クリミア沖でロシア戦闘機がイギリスの偵察機にミサイルを発射した事件について、「撃墜寸前」だったことを示す機密文書が含まれていました。当時、英政府はロシア機による「誤作動」と公表していたのですが、実は英国とロシアの直接の戦いになったかもしれないし、米国を巻き込んだかもしれません。

 欧米はロシア軍を監視し、その情報をウクライナに提供しています。米国はどこよりも多く武器や軍装備品を提供し、軍事訓練やインテリジェンスも行っている。英国もポーランドも同様です。ですから今起きているのはリアルな代理戦争で、リアルな危険が作り出されています。焦点はプーチン大統領が核兵器を使うかどうかです。ホワイトハウスはクレムリンに対し、もし核を使えば米国が直接戦争に乗り出し、ウクライナや黒海でロシア軍を攻撃し、この侵略戦争を続行できないようにすると釘を刺しました。ロシアが核兵器を使うことが事実上のレッドラインだということです。

■地理的拡大を目指す

 けれどもプーチンがそれを越えるには、破れかぶれにならなければ無理です。今プーチンはそのような状態にありません。プーチンの国内支持率は依然として高く、大きな権力基盤を固めています。ロシア経済は制裁を受け続けても、さほど悪い状態ではなく領土を失っていない。ウクライナは欧米の支援を受けてもロシア国内奥深くまで攻撃する軍事力はありません。これらを総合すると、ロシアが核攻撃に出る可能性はきわめて低いと言えます。

 今後ロシアがとる形態としては、大量破壊兵器や核によって無差別殺戮を引き起こす「垂直的エスカレーション」よりも、外交・経済・情報・軍事的要素を含む地理的拡大を目指す「水平的エスカレーション」になるのではないでしょうか。地政学的にいってこの戦争は1962年のキューバ危機以来、もっとも危険な状況です。冷戦時代よりもはるかに危うい。

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