戴冠式後、バッキンガム宮殿のバルコニーから国民に手を振るチャールズ国王とカミラ王妃(写真:AP/アフロ)
戴冠式後、バッキンガム宮殿のバルコニーから国民に手を振るチャールズ国王とカミラ王妃(写真:AP/アフロ)
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 英国のチャールズ国王の戴冠式が5月6日、ロンドンのウェストミンスター寺院で執り行われた。儀式の意味、国王が掲げた戴冠式のテーマなどを振り返る。AERA 2023年5月22日号の記事を紹介する。

【写真】戴冠式の「忠誠の誓い」でチャールズ国王の耳元でささやくウィリアム皇太子

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 英国王チャールズ3世(74)の戴冠式が5月6日に執り行われた。当日、バッキンガム宮殿を出発した国王夫妻は、一直線にのびるザ・マルから官庁街などを通り、ウェストミンスター寺院に到着した。馬車はダイヤモンド・ジュビリー・ステート・コーチで、2012年のエリザベス女王在位60年を記念して制作された。冷暖房完備で、窓は電動式だ。

 11時に戴冠式は始まった。国王が、イギリスの法律とイギリス国教会の教義に従うことを誓うと、秘儀である「塗油の儀式」に進む。カンタベリー大主教が国王の頭、両手のひら、そして胸に十字架の形に聖油を塗る儀式だ。

戴冠式の「忠誠の誓い」でチャールズ国王の耳元でささやくウィリアム皇太子。その言葉に国王は目を潤ませた(代表撮影/ロイター/アフロ)
戴冠式の「忠誠の誓い」でチャールズ国王の耳元でささやくウィリアム皇太子。その言葉に国王は目を潤ませた(代表撮影/ロイター/アフロ)

 国王は衝立で囲まれ、木製のエドワード王の椅子に座った。聖油はエルサレムの教会の果樹園で育ったオリーブの木から作られ、シナモンやジャスミンなどで香り付けされているという。油を塗ることの起源は「羊飼い」。羊にシラミなどが付いて耳に入ると羊が死ぬことがある。その対策として油を使ってシラミを落としたことから、君主を悪から守る、健康や長寿を祈るという儀式になったといわれる。

 塗油が終わると、国王は玉座に移動。王笏(セプター)や宝珠(オーブ)を手に持ち、聖エドワード王冠を授けられた。王冠は1661年にチャールズ2世のために制作され、純金、ルビー、サファイアなど444個の宝石があしらわれている。重さ2.2キロ以上もあるため、寺院を退出する前に比較的軽い大英帝国王冠にかぶりなおす。とはいえ、大小3千個強の宝石がちりばめられたこちらの王冠も1キロ以上あるという。

存在感を示したウィリアム皇太子一家に対し、英メディアは「国王一家になる準備ができている」(写真:AP/アフロ)
存在感を示したウィリアム皇太子一家に対し、英メディアは「国王一家になる準備ができている」(写真:AP/アフロ)

 戴冠を済ませたカミラ王妃(75)とともに行きとは異なる約260年前に製造されたゴールド・ステート・コーチに乗り、宮殿に戻った国王。やがてバルコニーに姿を現し、国民の歓声にこたえた。

 今回、国王が掲げた戴冠式のテーマは二つ。一つは簡素化だ。インフレーションに苦しむ国民に配慮してルートを短縮、ゲスト数も絞った。もう一つは多様性だ。初めて女性聖職者が新約聖書の一部を読み上げた。また、キリスト教の一大イベントながら、キリスト教以外の宗教の聖職者がレガリア(王の権威を象徴する宝飾品)を国王に手渡した。ヒンドゥー教徒が指輪、シーク教徒が手袋、イスラム教徒がブレスレットというように。国王が多様性を重視したのは、国内のマイノリティーの割合が増え、彼らの貢献を認知しているからだろう。(ジャーナリスト・多賀幹子)

AERA 2023年5月22日号より抜粋