■中ロと欧米の綱引き
岸田首相は5月7、8両日に韓国を訪問。尹錫悦大統領との首脳会談で徴用工問題の合意に向けて歩み寄り、日韓関係を正常化させた。その尹大統領もサミットに招待し、バイデン米大統領を加えた日米韓首脳会談も開催される。中国や北朝鮮に対して連携を強めていく方針が確認されるだろう。
国際社会ではいま、インドやアフリカ、中南米などの新興国・途上国で構成する「グローバルサウス」が注目されている。ロシア・ウクライナ戦争に中立的な立場をとる国も多く、G7各国はグローバルサウスの取り込みに懸命だ。この10年ほど、軍事的にはロシアが、経済的には中国が進出を強めてきたグローバルサウスをめぐって、中ロをどう押し返すかが、サミットの重要なテーマでもある。
この大型連休中に、岸田首相はアフリカ4カ国を歴訪、林芳正外相も中南米諸国を訪問してグローバルサウスの意向をサミットの議論に反映させる意向を表明。日本のグローバルサウス外交をアピールした。ただ、ロシア、中国の巻き返しも強まっており、中ロと欧米の綱引きはさらに活発になりそうだ。
■核軍縮への逆風
そして、長期的なテーマは核軍縮である。広島を選挙区とする岸田氏は30年前の初当選以来、核軍縮問題に取り組んできた。外相の時は、核軍縮に向けた提言をまとめてもらうために国内外の有識者による「賢人会議」を創設。今回のサミットを広島で開催することを決めたのも、岸田氏の核軍縮にかける熱意の表れといえる。
しかし、国際社会では核軍縮への逆風が強まる。北朝鮮は核開発を加速させている。ロシアのプーチン大統領はウクライナへ侵略後もたびたび、核兵器使用をちらつかせている。米国の「核の傘」に守られてきた日本ができることは限定的という悲観論が日本政府内にも根強い。
広島サミットでは、全体を総括する首脳宣言のほかに核軍縮問題での「成果文書」も発表される予定。核軍縮は・核保有国が先制使用しない・核保有国は核兵器を削減する・核保有国を増やさない、などの点をどこまで明確にできるかがカギだ。現状での核軍縮には米英仏の保有国が難色を示している中で、岸田首相がどこまで成果を出せるか、その覚悟が試される。(政治ジャーナリスト・星浩)
※AERA 2023年5月22日号より抜粋