春風亭一之輔・落語家
春風亭一之輔・落語家
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 落語家・春風亭一之輔さんが週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「ひと休み」。

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 人間、集中して物事に臨むとどうしてもくたびれて一息入れたくなるものです。

 原稿に行き詰まって筆が進まんな、というとき、私は周りの雑音に耳を傾けます。

 喫茶店での近くの席の男女の会話。「誰だっけ、ほら」「誰?」「女優でモデルみたいな、歌もうたってる、ほら、誰だっけ?」「沢山いるよ」「あのね……なんとかミキ」「なにミキ?」「上の名前が……出てこない」「中谷? 水野?」「んー。調べりゃわかるんだけど悔しいな……」。エライ。ネットに頼ったら面白くないからね。中年カップルが頭を捻っています。5分くらいして男性が「あー! そうそう! ツボイ!」と叫ぶ。「誰それ?」。思わず女性とハモりそうになりました。ツボイミキ? 誰だかわからないけど、私も検索したりしない。あるがままの会話を受け止めます。これだけでいいひと休み、頂きました。

 私はラジオをやってますが、数時間の生放送はひと休みしなければなかなかにくたびれます。CM中と曲をかけてる最中に、トイレに行ったり、コーヒー飲んだり、お菓子をつまんだり。

 パートナーの方が生CMの原稿を読んでいるときも数分は休めます。ただCMはバックにスポンサー様がいらっしゃるので、物音を立てたりしたら大しくじり。息をひそめてジッと時間が経つのを待つ。これはかえってくたびれるひと休み。

 本業の落語。喋ってる最中にひと休みすることもあります。マクラでどうも乗り切れなかったり、ネタの選択を瞬時に変えなきゃいけないときなどは、ちょっと休んじゃいます。

 中空を見つめてニヤニヤ薄笑いを浮かべたり、目の前のサンパチマイクの「SONY」のロゴにジッと見入ったり、扇子を手元で軽く放り一回転させてキャッチしたり。そんな息抜きをして「ひと休む」のです。ものの1、2秒のときもあれば、7、8秒のときも。「おい、大丈夫か?」と多少お客さんが不安になっても、それくらいの間をおくといい切り替えになったりします。こっちがどっしり構えていればどうってことなし。「間に強く」生きていきたいものです。

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