2023年5月13日午後6時の週刊朝日編集部。校了日。この時間に出社していたのは、私の担当小泉耕平さんとあと一人の部員だけだった。天井から下がる中吊りは、2010年代前半でとまっている。
2023年5月13日午後6時の週刊朝日編集部。校了日。この時間に出社していたのは、私の担当小泉耕平さんとあと一人の部員だけだった。天井から下がる中吊りは、2010年代前半でとまっている。

「旬刊朝日」は五つと数えた時に、「サンデー毎日」が創刊されるのにあわせて「週刊朝日」となった。

 それからいくつ、自分は「校了」作業をみたかわからない。勘定しても勘定しつくせない「校了」があり、雑誌があり、人々の喜怒哀楽があった。

 刊行日には、列車に中吊り広告がでるようになり、人々はそれで世の中の動きを知るようになる。

 100万部をうかがう時代には「原爆が若し東京に投下されたならば」(1951年8月19日号)という、自分が前号でやるべしと書いた「大胆な予測報道」に取り組んだ号もあった。超能力ブームにわいた1974年には、写真部員が少年のスプーン曲げを連写し、そのトリックを明らかにしたりもした。

 2023年5月13日の土曜日、その日も「校了」の声を聞きに、編集部にいった。

 夕方6時なのに、編集部はがらんとしていた。多くの編集者はリモートで仕事をしているのだという。編集長も出社していない。

 ふとみあげると、天井からは、いくつもの中吊り広告が下げられていた。が、その中吊り広告は色あせ、民主党政権時代のものを最後にとまっていた。

「百年はもう来ていたんだな」とこの時初めて気がついた。

 週刊朝日は紙の雑誌の草分けだった。その紙の雑誌の時代が終わりつつある。では雑誌というメディアの可能性がないかというとそうではない。このコラムでもとりあげた英『エコノミスト』誌(1843年創刊)、や米『ザ・ニューヨーカー』誌(1925年創刊)は、現在も部数を伸ばし続けている。『週刊朝日』との大きな違いは、電子有料版に成功したことだ。週刊朝日もウェブには対応したが、アエラドットという無料で記事が読めるサイトだけだったことに大きな違いがある。

 部数という言い方はもうそぐわないかもしれない。月極めあるいは年間購読の契約者数で数える。英『エコノミスト』誌でいえば、1996年に50万部だった部数は、最新の数字で118万5000契約者数ということになる。

 サンデー毎日で2020年3月に始まったこの連載は、週刊朝日休刊のあと、6月12日発売号からAERAに移る。ただし、当面の間は隔週での連載。回数はみたび「第一回」からということになる。

 そこでしか読めないものを、今後も書き続ける。

下山 進(しもやま・すすむ)/ ノンフィクション作家・上智大学新聞学科非常勤講師。メディア業界の構造変化や興廃を、綿密な取材をもとに鮮やかに描き、メディアのあるべき姿について発信してきた。主な著書に『2050年のメディア』(文春文庫)など。

週刊朝日  2023年6月9日号

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