安倍氏による集団的自衛権の行使容認については、憲法違反だとする意見が強く、朝日新聞も毎日新聞も「反対」の姿勢を見せた。
だが、私は小泉内閣時に日本の外交を仕切っていた岡崎久彦氏から深刻な課題を聞かされていた。
東西冷戦期、日本は西側の極東部門であり、米国には日本を守る責任があったが、冷戦が終わり、米国にその責任がなくなった。だから、これまでの日米安全保障条約、つまり米国が日本を守るというだけの片務的な形では日米同盟は持続できない。米国が攻撃されたら日本も戦うという双務性にしなければ、というのである。
岡崎氏たちは、小泉内閣でそれを実現させようとしたが、小泉氏が首を縦に振らず、その後、安倍氏が集団的自衛権の行使容認というかたちで、氏らの要望に応えた。
これをどう捉えるか。私は朝日新聞、毎日新聞のトップ記者たちに、「もしも日米同盟が解消されたら、日本は防衛費を2倍、3倍に増大させなければならない。現在は米国の核の傘で守られているが、自前の核兵器を持たざるを得なくなるのではないか」と問うた。
トップ記者たちは「その意見には同意せざるを得ない。安倍首相の判断を認めるしかないのか」と不満むき出しの口調で言った。
そして、私の言動は少なからぬリベラル派の人々の反感を買ったのである。
田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
※週刊朝日 2023年6月2日号